憲法学会の「文理解釈」優先が国を亡ぼす
―門戸を開き「論理解釈」できる学者の育成を―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
  新安保法の審議と並行して衆院で憲法審査会が開かれた。その際、与党推薦の憲法学者まで、「集団的自衛権の行使は憲法違反だ」との見解を述べた。安倍首相の憲法改革願望が壁にぶち当たった観があった。憲法学者は「武装自体が憲法違反だ」というものまで含めると9割が反対論だという。
 自衛隊の存在も集団的自衛権の行使も憲法9条2項の「(戦争を放棄するという)前項の目的を達するため・・・・戦力はこれを保持しない」を根拠としている。この2項を憲法制定に当たって芦田均氏が付け加えた“芦田条項”という。吉田茂首相は警察予備隊を正当化するため「戦力無き軍隊」といったものである。
 吉田内閣以後、日本を取り巻く国際環境は予備隊程度では防衛できなくなり、順次追加して、現在の陸・海・空の自衛隊となった。いまや尖閣諸島について中国は「わが国固有の領土」とか「核心的利益」などと言っている。国際情勢を見れば、まさに「戦力」が必要だということを国民の多くが感じている。
 そういう中で行われた憲法審議会で学者の誰もが“訓詁学”のように字句解釈しかしないのは奇怪だ。訓詁学というのは儒教の解釈が字句解釈に陥って、本来の文意から逸れてしまった様を言う。憲法学者の側から「この文言では軍隊の存在は認められないから、修正すべきだ」という声が上がってもおかしくない。憲法学会に国際常識や国際認識を持つ人がいれば、これまでに学説の“修正”が怒ってしかるべきだ。ところが、学会という場所は新しい学説を開陳したり、異説を唱える者を排除する。
 30年ほど前のことだが、勤めていた通信社の採用試験にかかわったことがある。その時社長から聞いた“注意”で「○○大学から採るな」というのがあった。なぜだと思ったら、あの大学は「経済は相変わらずマルクス経済学だからな」という。このご時勢にマルクス経済では役に立たない。現在どうなっているかは知らないが、なぜマルクスに固まったのか調べて合点がいった。教授を目指す人達は教授会の承認或いは推薦がなければ講師、助教授、教授と進んでいけない。既に在籍している教授は自分と同じ学説の後継者を望む。悪いことに自分より優れている学者は採用しない。この結果、教授連中は年々、劣化してロクなものが残らない。
 憲法学会も「この条文では国家が保てないのではないか」と認識する学者が発言しないから9割がおかしくなったのではないか。
 安倍首相がこのカラクリに気付いたのかどうか。昨年、国立大学法人法を大改正し、教授の任免を学長や理事長など役員の専権にした。これによって教授会が仲間ばかり集める積年の幣(ぬさ)が改められるだろう。学長はどの大学研究からでも良い人材を金に糸目をつけず引っ張ることができる。これで学者の劣化が止まるだろう。


(平成28年3月9日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
 Ø 掲載年別  
2016年の『論壇』

2015年の『論壇』

2014年の『論壇』

2013年の『論壇』

2012年の『論壇』

2011年の『論壇』

ホームへ戻る