岡田・志位の野党共闘の行方は?
―捨て身の共産党、空虚な芝居興行のはじまり―

   
理事・政治評論家  屋山太郎 
 夏の参院選で、共産党が香川県を除いて自党の候補を下ろした結果、全野党が推す統一候補を支持する体制が出来上がった。これまで一貫して「共産党」のゼッケンを付けて走っていたのが、ゼッケンは要らないと言い出した思惑は何なのか。
 安倍政権の支持率は「新安保法」の成立時に10%ほど下がったが、あとは持ち直して常時、45〜50%の支持を保っている。一方の民進党は旧民主党時代から10%に届かず、維新が合流したのちも2ケタに上がらない低調さである。日経新聞が5月2日付で報じた世論調査だと「7月の参院選で投票したい政党」は自民党が44%で3月調査から8ポイント上昇した。民進党は2ポイント上昇したが15%に止まった。
 6年前の参院1人区は自民の21勝8敗、3年前の2013年は29勝2敗と自民党が圧勝しており、1人区の大勝は比例票に結びついてくる。共産党の志位委員長はこのままでは3年前、6年前と同じ傾向になる。ここで捨て身になって歯車を止めなければ永久に政権交代は困難になると判断したのだろう。
 志位氏は民進党の岡田克也代表に選挙に向けて「国民連合政府」を作って共闘することを申し入れた。岡田氏も当初は乗り気を見せたが、党内に持ち帰ってくると強い反発を受けた。その最たる批判が前原誠司元代表の「シロアリとは組めない」という激烈な言葉だった。シロアリは建物の土台を食う。共産党と組むといずれ共産党に乗っ取られるという恐怖感は自民党も勿論、旧社会党も持っていた共通の恐怖感だ。このため共産党は選挙戦の殆ど全てを独自で戦ってきた。
 当選の見込みのない選挙区でも「共産党」の候補者を立てるから、1回の選挙で合計1億円の供託金を没収されるのが常だった。参院の1選挙区で2〜9万票を出し、そこの票を集めて比例で3〜5議席を得るというのが共産党の戦略だった。岡田代表が志位委員長の国民連合政府構想を断ると、志位氏が改めて打った手は「新安保法廃止」の一点だけの合意でいいというものだった。連立政府を作って「新安保法」を廃止してから、のちに政策を協議するなどという政府ができるわけがない。共産党がいうほど「新安保法」が悪いのかという反発も民進党内から出てくるだろう。
 共産党の投げかけた影響を見て、志位氏は「野党統一候補を黙って推す」という“無償援助”方式を打ち出した。仮に統一候補方式でいくと3年前の選挙で自民党が29勝した選挙区のうち、宮城県では42万票対51万票に逆転する。栃木県でも37万票対40万票。山梨県でも14万票対23万票になる。山形、新潟、長野、三重も逆転の様相になる。確かに足し算では逆転だが、「共産党が加わるならオレは反対側に入れる」という票も相当に出るだろう。このため共産党は一切顔を出さないと言っているが、実際に前面に出て運動するのは共産党が操る学生団体「シールズ」など。この芝居、うまくいくのか。


(平成28年5月25日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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