武器輸出三原則の見直しについて

 
評議員・元三菱重工業(株)航空宇宙事業本部副事業本部長
  西山 淳一

 平成23年12月27日、野田政権において武器輸出に包括的例外化措置がとられることになった。
 各紙の報道内容は「武器輸出三原則の緩和、正式決定 国際共同開発を容認(朝日新聞)」、「武器輸出三原則:大幅緩和 事実上の大転換 国民的議論ないまま(毎日新聞)」、「藤村官房長官、武器輸出三原則緩和の談話発表(産経新聞)」―のように大幅な緩和がなされ明日からにでも武器輸出が始まるような表現である。
 官房長官談話のポイントを整理してみると、
(1)包括的な例外化により、防衛装備品等の海外への移転を可能とする。
 @ 我が国の事前同意なく「目的外使用」、「第三国移転」がないことを前提として平和貢献・国際協力に伴う
     案件の輸出を許可する。
 A 我が国の安全保障に資する防衛装備品等の国際共同開発・生産に関する案件については、安全保障面での協
     力関係があり、我が国の安全保障に資する場合、目的外使用や第三国移転について我が国政府による事前同
     意を義務付けて輸出を許可する。
(2)国際紛争等を助長することを回避するという平和国家としての基本理念に基づき慎重に対処する。

 つまり、従来からある佐藤内閣の武器輸出三原則、三木内閣による統一見解を含めた「武器輸出三原則等」を否定、あるいは撤回したものではなく、上記以外は、武器輸出三原則等に基づき慎重に対処することとしている。
 今回の談話だけでは明確になっていないことも多い。
 包括的に例外化される装備品とは何か。安全保障面で協力関係のある国とはどこか。我が国の貢献が相対的に小さい場合、とはどういう意味なのか。
 日米BMD共同開発・生産のように日本政府が直接関与しているプログラムについては政府方針により進めていくことになり、次期戦闘機には国際共同開発されているF-35が選定されたのでどのように取り組むかが当面の課題となろう。更には、すでに日本に導入しライセンス生産している装備品の輸出は認められるのか、防衛装備品に関する外国企業との共同研究は認められるのか、などこれから種々のケースが出てくると思われるが、個々の案件に即して例外化の是非が検討されることになろう。具体的な制度設計が求められるところである。
 東京新聞【社説】では「武器輸出三原則 歯止めなき緩和許すな」と武器輸出拡大の警戒感を煽っているが、防衛装備品は民間企業が勝手に輸出をするものではなく、政府の安全保障政策の一環として総合的に判断されるものである。一方、朝日新聞 webronza (2012年1月10日)では「武器輸出三原則の緩和、野田政権の本当のねらい」との表題で「結論から先に述べれば、戦後、政府の庇護のもとに市場と利益を保証され、ぬるま湯の「殿様商売」に甘んじてきた防衛産業に対し、政府みずからがその背中を突き、生き馬の目を抜く国際社会の荒海へと押し出そうとしている構図に近い。」と防衛産業がこれから直面するであろう困難さを指摘している。
 国内防衛産業は武器輸出三原則の見直しに伴いこれからの防衛事業への取り組み姿勢が問われているとも言えよう。
 
                                             (2012.1.24)

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