●国連総会で日中の激論はヒートアップ
日本と中国がニューヨークで開かれている国連総会で尖閣諸島問題をめぐり激しい論戦を展開した。
野田首相は、26日の一般討論演説で4分の1を領土問題や国際紛争に費やし、「自らの主義・主張を、一方的な力や威嚇を用いて実現しようとする試みは、決して受け入れられるものではありません」と述べ、中国と韓国を強くけん制した。
これに対し、中国の楊潔※(よう・けつち)外相が27日夜の演説で、「日本が釣魚島を盗み取った」と過激な言葉で非難した。中国の「盗み取った」という表現に激憤した児玉和夫・国連代表部次席大使は直ちに「日本は正式な手続きを踏んで(尖閣諸島)を編入した」と反論。これに対し中国側はさらに反発し、中国の李保東・国連大使は「日本は歴史を歪曲している。13億の中国国民は怒っている。断固として戦う」と述べた。その後、児玉次席大使が「尖閣諸島は日本の領土だ」と再反論するなど、激しい攻防が続いた。
●尖閣諸島の戦略的意義――米中覇権争いの「天王山」
尖閣諸島は、魚釣島、久場島及び大正島など5島 3岩礁からなり、総面積は高々6.3平方キロメートルに過ぎない。しかし、大袈裟に聞こえるかもしれないが、尖閣諸島の領有は、米国の世界覇権(軍事覇権と経済覇権)を左右するものである。まさに、アメリカと中国の覇権争いにとって文字通り「天王山」の価値を有する。
「天王山」とは、豊臣秀吉と明智光秀が戦った山崎の合戦で、周囲が見渡せるため「天王山」を先に占領した豊臣陣営が、戦いに有利な立場に立つことができた。この戦史が転じて、戦いの勝敗を左右するような重要な地形や条件のことを「天王山」と呼ぶようになった。
以下、「尖閣諸島は米中の『天王山』」という論について、その謎解きをしよう。
●中国が尖閣諸島を占領確保すれば、日米同盟の破綻は必然
尖閣諸島の確保は日本の責任であり、日本政府があらゆる努力で実効支配を確保することは当然だ。しかし、戦後70年近くも「吉田ドクトリン」――資源を済再建に優先配分し、軍備増強を排し軽武装に徹し、アメリカ頼みの安全保障を志向――を採用してきた日本の国防体制は不十分で、特に核・ミサイルや敵基地攻撃能力は皆無に近い。
従って、日本単独で中国と本格的に事を構えるのは不可能だ。日本の安保政策は、日米安保条約に基づきアメリカに依存する体制である。アメリカが、もし尖閣諸島をめぐる日中の対決にコミットしなければ、日米安保条約・日米同盟が破綻するのは説明の要も無いことだろう。
●日米同盟が破綻すれば、アメリカのアジア・太平洋重視戦略も破綻
日米同盟が破綻すれば、オバマ政権が打ち出したアジア太平洋重視の軍事戦略も破綻するだろう。まず、日米同盟が破綻すれば、朝鮮半島有事の韓国防衛の支援後拠が消失し、韓国は米韓同盟を見直さざるを得ないだろう。また、台湾の存立も決定的なダメージをこうむることは論を待たない。
日本という「不沈空母」を失ったアメリカが取りうる可能性のある戦略は、日本・韓国・台湾を切り捨て、東南アジアとオーストラリア・ニュ―ジーランドを繋ぐ線までフロント(戦線)を後退させたものだろう。アメリカとオーストラリアが、オーストラリア北部のポートダーウィンに新たに米海兵隊を駐留させることで合意したのはこのような理由からだろう。すなわち、アメリカは、北東アジア正面――特に日本――を切り捨てることも想定している可能性があるとみるべきだ。
●中国にアジアにおける覇権を奪われれば、アメリカは軍事的な世界覇権を失う
台頭する中国と凋落するアメリカ、という文脈の中で、日米同盟の破綻は、アメリカの世界覇権(支配)を失う象徴的な事件となるだろう。冷戦時代には、米ソは、ユーラシアのリムランド――地政学者ニコラス・スパイクマンの造語で、北西ヨーロッパから中東、東南アジアに至るユーラシアの沿岸地帯を指す――であるヨーロッパとアジアさらには中東の三正面で対決する構図だった。それが、今日、米中はアジアの一正面だけで向き合っている。この、アジア正面のなかで、最重要な北東アジア正面において、中国に屈することになれば、アメリカは、世界覇権国(一極支配)の地位を完全に失いかねない。
●アメリカが軍事的覇権(世界の警察官)を失えば、ドルの「世界通貨」の地位も失う――結果としてアメリカは、世界的軍事・経済覇権を失う
軍事と経済は完全にリンクしている。今日、意図的に「ドル安」を保ちながらもドルが「世界の通貨基軸」の地位を維持できるのは、アメリカが軍事的に世界を支配しているからであろう。双子の赤字(貿易赤字(経常赤字)と財政赤字)やベビーブーマー世代の年金増大など、ただでさえアメリカ経済の先行きは暗い。このような中で、アメリカの国防予算には大鉈が振るわれる可能性が高い。アメリカは、いずれ戦後維持してきた世界的な軍事・経済覇権を失い、世界が多極化するのは時間の問題であると思われる。
●中国は何のために尖閣諸島問題でかくもヒートアップするのか
2012年9月17日、環球時報(電子版)によれば、インド防衛研究所の中国政治専門家ルクマニ・グプタ氏はその論文で「中国政府は米国がアジア太平洋重視戦略をどれほど重視しているかを判断するため、故意に尖閣問題をめぐる緊張を維持している」との説を述べているという。
私もこの意見に賛成だ。軍事用語で「威力偵察」という言葉がある。敵の「本気度」や防備の「からくり」の秘密を暴くために、小規模の攻撃を仕掛けることだ。中国はアメリカの日米同盟に対する「本気度」を試しているのだろう。日本を恫喝し続ける中国の視線の先にあるのは、度を失った日本の野田政権ではなくアメリカ、就中ペンタゴンの反応であろう。これは、中国が台頭し、アメリカが凋落する限り、永遠に続くものと覚悟した方がよい。そして、中国が、「アメリカは本気ではない」と判断した瞬間に、尖閣諸島の軍事占領を目指すだろう。
●むすび――アメリカよ、尖閣諸島を守れ!
弱り目のアメリカが、世界の軍事・経済覇権国の地位から転落するのは時間の問題であろう。尖閣諸島問題の帰趨によっては、覇権を失う時期をいっそう早める可能性がある。従って、アメリカは、尖閣諸島問題を「他人事」として見るのではなく、「国運を左右する一大事」と位置づけ、同盟国である日本のために積極的にコミットすべきではなかろうか。それは、日本のためだけではなく、アメリカ自身のためでもある。
また、忘れてはならないのは、我々日本国民自身の「国を守る気概」である。戦後アメリカの属国に甘んじ、国防を等閑視してきたことを猛省し、来年度予算から防衛費を二桁に増やすくらいの真剣さがなければ、国民の生命財産や領土を守る「本気度」を周辺国は信じないだろう。
(10月2日付JBpressより転載)
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