金正恩政権の率いる北朝鮮は、唯一至上の国家目標である金王朝維持のための手段として、核武装や弾道ミサイルの開発に没頭する姿勢を変えず、関係国に対する言動を尖鋭化するなど、周辺地域に軍事的な緊張を煽り続けている。
また、中国の習近平政権は「中華民族の偉大な復興」を国家目標に掲げ、「海洋強国」建設を目指して、今や「核心的利益」となった尖閣諸島を含むわが国周辺海域や、西太平洋方面への軍事的侵出を続けている。
大方の日本国民は、従来よりも格段に緊迫感の増した地域安保環境の変化に、現実的な不安を感じるようになった。こういった状況変化に対し、如何に有効に対処するか、わが国の国防力の真価が問われている。
●今そこにある脅威
北朝鮮は、米韓軍に比し、圧倒的に劣勢な通常戦力の格差を埋めるため、@核兵器開発、A長距離弾道ミサイル開発、B弾道ミサイル実戦化を目論んでいる。
北朝鮮自身は、「核保有国」であると自称しており、既に数発の核兵器を所有していると見る分析もある。
また、200発を越えるノドン・ミサイルが、日本を標的として実戦配備されていると目されており、金正恩の極端な瀬戸際政策とあいまって、日本国民を不安にさせている。
日本は、同盟国米国とともに、北朝鮮が事態を引き起こすことを抑止するとともに、事態発生に対する体制を完備する必要に迫られている。
しかし、わが国や地域にとって、安全保障上の懸案として最大のものが、中国であることは疑いない。日中間には、領土や権益に絡む係争点が現実問題として存在するが、最近これらの問題に関し、中国が日本に対し、強圧的な対応を繰り返すようになった。
尖閣諸島を巡っては、既に一触即発の状況にあるといっても過言ではなく、事態沈静化のための日中間の外交上の協議も進展していないことから、今後、中国側の出方によっては、現場における偶発的な小競り合いが引き金となって、本格的衝突へとエスカレートする可能性も否定できない。
また中国は、わが国の南西諸島を北端とする第1列島防衛線の外側の西太平洋海域で、米海空軍力の接近を阻止し、核心地域での行動を拒否する近接阻止・地域拒否(A2/AD=Anti-Access/Area Denial)戦略の構築を目指し、航空母艦、原子力潜水艦、ステルス戦闘機などに代表される海、空軍力の近代化、増強を始め、長射程の対地・対艦用の弾道・巡航ミサイルや、宇宙兵器、サイバー戦能力を著しく強化している。
中国との衝突となれば、対北朝鮮とは比較にならない規模、態様の事態を想定せざるを得ない。
日本は、尖閣諸島を巡っては、毅然とした対応を保ちつつ抑止する体制を整える一方、細心の注意を払って事態のエスカレートを予防しなければならない。
また、事態の急変に備えて、同盟国米国とともに、事態発生に対する体制を完備する必要がある。
他方、中国のA2/AD戦略に対しては、日本自らの努力により、東シナ海及び南西諸島列島線における海上・航空優勢を確保する態勢を整備し、米国の対A2/AD戦略と一体となって、事態に有効に対処し得る体制を整え、中国の野望を挫かねばならない。この場合、豪州など信頼のおける友好国との協同連携も重要となる。
●国防体制の強化
上述したわが国周辺の安全保障環境の変化を踏まえ、如何にして国防力の向上を図るべきか。
折しも、本年末の改訂を目指して「防衛計画の大綱」の改訂作業が始まったところでもあり、防衛力整備に焦点を当てて論じたい。
わが国が整備すべき防衛力の方向性としては、@自主防衛の強化(主体性を持った強靭な防衛力)、A日米同盟の深化(双務性を持った一体感ある日米共同)、B友好諸国との協力体制の拡幅(信頼性を持った扶助的な協盟)を追求すべきである。
第1の自主防衛の強化としては、主体性、精強性、即応性、機動性、抗堪性、継戦性ある防衛体制にシフトすべきである。特に宇宙を含む戦略・戦域情報収集及び常続的監視・特定目標監視体制の強化が必要となる。
当面の防衛力整備上の主要目標は、南西諸島方面の防衛・警備体制の強化(列島線・離島防衛のための統合両用機動展開能力の整備、海上・航空優勢、継戦能力の確保)、各種戦(迎撃・阻止航空戦、戦略・戦域対潜戦、対機雷戦、サイバー戦等)能力の強化となろう。
また、北朝鮮や中国の弾道・巡航ミサイル脅威に適切に対応するため、敵策源地攻撃能力や総合防空戦能力(一般防空・弾道・巡航ミサイル防衛の一体化)の確保も、重要となる。
また、これらの攻撃による被害を最小限とするための国民保護体制、政経中枢・原発周辺や米軍・自衛隊基地抗堪性の強化も必要となる。
さらに、防衛基盤として、防衛産業育成や武器輸出管理国際標準化の政策制定(共同開発・生産促進等)及び平時から非常事態に至る民間能力の活用範囲の拡大(輸送、補給、整備等)や、予備自衛官制度の拡充・実効化も必要となる。
第2の日米同盟の深化については、平時からの相互の集団的自衛権の行使、日米防衛協力指針の適用範囲の拡大や協力内容の深化・拡幅、緊密化が重要となる。
また、日米基地の共同使用拡大(日本国内、グアムなど日本国外)や日米装備の共同開発・使用(衛星等情報収集装備、攻撃型原潜など)も必要となる。
オバマ政権は、アジア重視を打ち出す一方、対A2/AD戦略を構想中であるが、巨額の財政赤字を抱え、国防費が大幅に縮減されることは必至である。
日米同盟関係において、わが国防衛と地域の安定化のために、日本の分担が増えることは、覚悟しなければならない。
第3の友好諸国との防衛協力体制の拡幅については、価値観を共有し、国際法に依拠して行動する友好国(豪・印・ASEAN・NATOなど)との、国際公共的な価値や利益の擁護、国力や国情に応じた分担を旨とする海洋安保協盟(コアリション:有志連合)の拡大が,基本方策となる。
そしてこれらの国々との戦略・戦域情報の共有、装備面での協力、更に協盟国間でのCBM(信頼醸成、能力構築)の推進に、日本はイニシアティブを発揮しなければならない。
●おわりに
安倍政権は発足以来、7月の参議院選を前に、国防問題に関して「慎重」な姿勢を見せながらも、幾つかの重要なイニシアティブを発揮してきた。
今年度予算を微増修正して、防衛費縮小に歯止めをかけ、更には国家安全保障会議(JNSC)設置、集団的自衛権の行使、敵基地攻撃能力の保有などについて具体的な検討を進めている。
また,日米防衛協力指針の見直し、防衛計画の大綱の改訂及び中期防衛力整備計画の新規策定を進め、国家安全保障基本法の制定や、憲法改正に本格的に取り組む姿勢も示している。
こういった安倍首相のイニシアティブには、大いに共鳴する。4月17日、安倍首相は国会での党首討論で、石原維新共同代表の質問に対し「この10年間、財政再建のために防衛費も一律削減してきたが、第1次安倍政権でも削減したことを反省している。防衛費は他省庁並みに国内を見て一律削減するものではなく、安全保障環境を見て検討すべきもの」と応えた。
戦後の歴代首相の中で、これだけ明快に防衛費重視の方向を示したのは始めてである。
正に「その言や良し」、実行を期待するばかりである。
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