北無人機侵入で見る防空の落し穴と教訓
  

                                                                   研究員拓殖大学国際開発研究所

                                                        高永

   

 先月、韓国では某国の無人機が大統領府上空まで侵入、写真を取るなど衝撃的なショックを与えた。5月9日、韓国国防省はこの無人機は北朝鮮が浸透させた事実を検証、発表した。
 北朝鮮の無人機は3月24日、大統領府をはじめ西海、白領島の軍駐屯地辺り、4月6日は、休戦ライン南方130kmの三渉野山でも墜落機体が発見された。東、西、ソウルの心臓部、大統領府まで無人機が侵入したのは今まで北朝鮮無人機が頻繁に韓国領空に侵入し偵察飛行に踏み切ったという証である。小型無人機は防空レーダ画像スコープ上に鳥と同じく写されるケースがある。
 発表によれば北朝鮮無人機はレーダに写されにくい素材の機体であると言う。しかし高度300m低空飛行する無人機のプロペラ騒音は誰でも聞こえるし機体は肉眼で十分確認できる。
 戦史教訓には「作戦失敗は容赦されるが警戒失敗は容赦できない」とある。完璧な警戒態勢は先端装備だけに頼らず肉眼監視が加わる事によって空き間ない防空監視態勢が整う。結果的に北朝鮮は韓国軍防空網の落し穴を貫いたと言える。
 ちなみに1987年5月、西ドイツ少年がセスナ機を操縦して旧ソ連の防空網を貫いてクレムリン広場に着陸した事例がある。
 先端防空装備で領空を監視しても小型無人機を掴むのは限界がある証である。今回の北朝鮮無人機浸透は先端装備だけに頼らず人間の肉眼監視こそが防空システムの落し穴を埋めてくれる!という教訓を物語っている。
 さらに、無人機を発見したのは軍隊ではなく民間人である。過去、1996年、東海岸に浸透中、座礁した北朝鮮潜水艇を最初に発見したのも民間人である。海岸線の水際線には空き間ない軍監視哨所がある。にもかかわらず軍隊ではなく民間人が発見したのは軍警戒態勢の落し穴が敵に貫かれたと言う証である。
 元より巨大組織の正規軍が小規模非正規軍の非対称戦(ゲリラ戦)に負けた先例は多い。例えば1975年、米軍はベトナムで長期ゲリラ戦に巻き込まれ負けたかのように撤軍した。
 その後、中国軍がベトナム軍と戦い撤退した先例がある。1980年代、旧ソ連はアフガニスタンで長期ゲリラ戦に巻き込まれ撤退した後、崩壊、分離独立した先例がある。
 従って我々は先端装備だけ頼ると巨大な正規組織も負ける恐れがある、という戦史の先例と教訓を忘れては行けない。最先端装備を持っていても、それを動かして警戒・作戦成敗を決めるのは人間の知能と思考であるからである。 (了) 

 
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