「反日中華連合」に走るのか、韓国と中国?
−歴史問題を国際化する韓中の暴走を防げ−
常務理事  樋口譲次

○ 独立当初から反日であった韓国
 大韓民国(韓国)は、日本の敗戦(1945年)とその後の米国の信託統治、すなわち米軍の施政下における支援を得て1948年8月15日に独立した。
 韓国の独立には、その後の対日政策を決定付ける2つの大きな要因が背景として存在する。
 1つは、独立が、当時反日を旗印に掲げていた一政治団体である大韓民国臨時政府の「法統」を継承していること、他の1つは、韓国は自からの力によって自立的に独立を果たしたのではなく、先の大戦の成り行きによって他律的に独立したという歴史的事実である。
 大韓民国憲法の前文は、「大韓国民は、三・一運動により建立された大韓民国臨時政府の法統及び、不義に抗拒した四・一九民主理念を継承し、…」と記述している。
 大韓民国臨時政府(以下、「臨時政府」)は、朝鮮の独立運動を進めていた活動家である李承晩や呂運亨、金九などによって1919年に設立された。一政治団体であったが、臨時政府は憲法を発布(1919年4月11日)した。その際、日本を東洋の独逸(ドイツ)であるとしてその非人道的暴行を非難するとともに、日本の野蛮を教化し、日本の暴力に勝利すると宣言している。つまり、戦後の反日の源流は、臨時政府のこの「法統」にあり、独立当初から韓国の対日政策の基本になったと考えられる。
 なお、「日本イコール独逸」論は、今日、わが国をナチス・ドイツに譬え、かつての枢軸国と連合国との対立を想起させ、問題の国際化によって有利な外交戦・宣伝戦を展開しようとしている中国の論法や手法と気脈を通じるものである。
 一方、韓国の独立が、自らの力によって成し遂げられたものではないという否定できない事実は、韓国民にとって、屈辱的で不名誉な歴史的負の遺産であると認識されたのは当然であろう。そのため、独立に際して国民の団結を促し、国家としての名誉挽回を図る上で、日韓併合は日本によって一方的に強制されたものであり、その強制に対して韓国民が立ち上がり、独立運動によって自ら独立を果たしたという歴史の虚構を作り上げる必要が生じたのは想像に難くない。強制されたと主張する従軍慰安婦問題も、同じ虚構の延長線上にある。
 以降、改竄された虚構の歴史を韓国の基点とする以上、そこから日韓間の歴史認識のねじれは必然的に生じる。そして、韓国側はそれを争点化して対日批判の手段として駆使し、今日に至ってさらに強化しているのである。

○ 親(従)北政権によって反共が民族主義に変わり、反日を増幅させる韓国
 大戦後の朝鮮半島は、日本の敗戦(1945年)とともに米・ソの利害対立の結果として38度線を境に南北に分断された。アメリカの信託統治下にあった南朝鮮(韓国)は、いわゆるアメリカ型の自由民主主義国家として独立し、同国に亡命し反日活動を行っていた李承晩が帰国して初代大統領に選出された。したがって、ソ連による信託統治の下にあり、同国の傀儡といわれた金日成の北朝鮮に対する反共主義は、韓国独立以来、もう一つの基本政策であった。
 1961年5月16日、軍事クーデターを起こした朴正熙(現朴槿恵大統領の父)が大統領に就いて軍政を布いた。その後、全斗煥、盧泰愚の軍人大統領による、いわゆる強権的な政治体制が続いたが、1987年6月29日の盧泰愚大統領の「民主化宣言」によって新たな時代が始まった。
 1993年2月25日、文民政治家の金永三が大統領に選出され、以降、文民政治家の大統領が定着して韓国政治の民主化が進展したと言われている。
 しかし、次の金大中大統領(1998.2.25〜2003.2.24)は、北朝鮮に向けて「太陽政策」を強力に推進した。その後継者として登場した盧武鉉大統領(2003.2.25〜2008.2.24、その間の約2か月間、権限停止)は、「左派新自由主義」を掲げ、太陽政策を極端なまでに発展させ、北朝鮮に対して徹底した宥和策を推し進めた。
 このように、韓国では約10年間にわたって、金・盧両大統領の親(従)北政権が続いた結果、従来の反共の国民意識は急速に弱体化して、親(従)北の民族主義が大きく台頭した。
 保守と目されるセリヌ党から大統領に出馬した朴槿恵は、2012年の韓国大統領選挙で左派・民主統合党の文在寅との激しい戦いの末、2013年2月25日に韓国史上初の女性大統領に就任した。しかし、得票率は、朴槿恵51.6%、文在寅48.0%の僅差であった。保守の劣勢に危機感を抱いた日本統治の経験のある70歳代以上の高い投票率が辛くもこの勝利を支えたとの分析もある。
 今年1月31日に開催された日本戦略研究フォーラム主催の定例シンポジウム「韓国はどこに向かっているのか」において、基調講演を行った櫻井よしこ氏は、韓国はいま内戦状態に入っていると指摘した。その通り、韓国は反共の保守勢力が弱体化する一方で、親(従)北左派勢力が伸長し、それに伴う民族主義の高まりによって社会全体が不安定になっている。そして、北に向けられていた反共の敵対感情が反日に転嫁され、それを一段と増幅させているのが今日の韓国の政治社会の現実である。
 我々は、日本の安全保障にとって重大な影響を及ぼす隣国が、このような国内情勢の瀬戸際に立っている事情を客観的に受け止めない訳には行かないだろう。

○ 「G2」論を先読みして親中に先祖返りしている韓国
 今日、国際社会が直面している戦略上の基本問題は、政治・経済・軍事的に世界強国として台頭著しい中国という新興国が、既存の世界大国である米国に挑戦することにより、大国間の利害が競合して対立・抗争が避けられないのではないか、という世界史で繰り返されてきたパターンである。
 今後、アジア太平洋地域を焦点に、中国は、その勢力圏あるいは影響圏をどの程度、どの範囲まで拡大しようとしているのか。その脅威を直接受けるわが国をはじめとする中国周辺諸国、そして中国の軍事的挑戦を唯一抑止できる力を持つ米国は、どのように対抗して行くのか。各国の防衛努力と相互協力の如何によって、国際社会は平和に向かうのか、動乱に陥るのか、混沌とした情勢の中で、危機を孕みつつ劇的に展開して行くものと見られる。
 昨年6月7日から8日の間、 訪米した習近平中国国家主席は、オバマ米国大統領に対して「新型の大国関係(new type of great power relationship)」の構築を提案し、米国もことさら反論することなく、受け入れたようだと報道されている 。
 「新型の大国関係」とは、戦略的ライバル関係をコントロール下に置くことで、歴史の繰り返しを避けることである(ステープルトン・ロイ前中国・シンガポール・インドネシア駐在米国大使)と理解されている。一方、「新型の大国関係」は、これから世界で最も影響力をもつ米国と中国の2国が、その他の国々が採るべき行動についてのガイドラインや基本ルールを設定するという、いわゆる「G2」論を指しているとの解釈もある。例えば、「太平洋を米中で東西に分割して管理しよう」(「米中太平洋分割管理構想」)との中国の提案などは、その典型である。米中は、この「G2」論を公式、非公式に否定しているが、真意は明らかではない。
 今日、韓国は、「G2」論、すなわち今後のアジア・西太平洋洋地域における中国の覇権確立は不可避であると判断した上での政策を採っているかのように見える。
 昨年2月25日に就任した朴槿恵大統領は、「(日本と韓国の)加害者と被害者という歴史的立場は、1000年の歴史が流れても変わることはない」と述べ、日韓対立は変えられない「千年恨」との認識を示し、先例を破ってわが国より先に中国を訪問した。そして、いわゆる「従軍慰安婦」問題や安倍首相の靖国神社参拝などの歴史認識、あるいは日本の軍国主義化批難など争点にして、中国との共闘姿勢が目立つようになった。中国ハルビン駅の安重根記念館の建設しかりである。
 もともと、韓国は、永年「小中華」を誇ってわが国を蔑んできた。そして今、「中華民族の偉大な復興」を目の当たりにして、「G2」論を先読みし、親中に先祖返りしていると見られかねない場面が多くなっている。
 中国の最大の戦略的ライバルである米国が、経済的な衰退に伴ってその地位やパワーを相対的に低下させる趨勢は否定し難く、米国を軸に回っていた国際社会が過渡期を迎えているのは確かだろう。
 しかし、21世紀を通じ、経済力、軍事力、ソフトパワー等の条件を総合すると、米国が「トップ集団の1位」に留まり、引き続き世界大国として君臨するとの見方はなお有力である。そして、中国の覇権的膨張に危機感を抱くようになった日本や東南アジア、インドなどの周辺諸国は、対中包囲網の形成に公然・非公然の連携を深めつつある。これには、ロシアが加わるかもしれない。
 つまり、中国寄りに舵を切りつつある韓国は、「自由、民主主義、人権、法の支配」を基調とする価値観を共有するグループに止まるのか、「中華民族の偉大な復興」に寄り添う途を選択するのか、半島国家としての韓国外交はまさに重大な岐路に立たされていると見て間違いなかろう。

○ 歴史問題を国際化する韓中「反日中華連合」の暴走
 わが国は、United Nationsを「国際連合(国連)」と呼び、本来「連合国」と訳すべきところであるが、敢えてその訳語の使用を避けてきた。しかもその運営に、米国に次いで世界第2位(2011年〜2012年12.5%、2013年〜2015年10.8%)の巨額の分担金を差し出しながら、わが国は常任理事国入りを果たせないばかりか、旧敵国条項を削除する課題さえも解決できていない。それは、「連合国」側の同盟条約的性格をもつ国連憲章の改正を拒む大きな力が、戦後70年近く過ぎた今日に至ってもなお、隠然と働いているからに他ならない。
 米国は、原爆投下や東京大空襲など、わが国に対して国際法違反の無差別攻撃を行った。また、東京裁判は、近代法の原則である罪刑法定主義を論拠とする法の不遡及性(事後法の禁止)に違反した「平和に対する罪」を根拠として開廷され、わが国を裁いた。戦勝国アメリカは、これらの誤りを決して認めることはないであろう。米国務省と駐日大使館が、安倍総理の靖国参拝に対して失望感を表明したのは、正にそれ故ではないか。また、日本の南方作戦によってアジアの植民地からことごとく追放された欧米諸国は、その悔しさや恨みを決して忘れることはないであろう。韓国と中国が反日運動のフィールドとして、欧米諸国を利用しているのは、それ故ではないか。
 「日本イコール独逸」論を主張した大韓民国臨時政府の「法統」を継承する韓国は、日本をナチス・ドイツに譬えて批難する中国と手を組んでいる。そして、両国は、戦前、枢軸国として戦った日本が、あたかもかつての連合国との再対決に向かっているかのように、意図的な外交戦・宣伝戦を仕掛けている。
 ソチ冬季オリンピック開会式に出席した中国の習近平国家主席は、韓国出身の潘基文国連事務総長と会談し、「来年(2015年)は国連設立70周年であり、反ファシズム戦争と抗日戦争の勝利から70周年でもある」と述べ、国連が記念式典の実施を国際社会に働きかけるよう求めた。
 このように、問題の国際化によって日本の名誉や国益を毀損して不利な立場に追い込み、覇権的拡張や歪んだ歴史認識を隠蔽して、強引に自己の正当性を主張しようとしている。
 わが国は、いまだに「戦後」を引き摺っている国際社会の中で、韓中が策動するこの現実に対して警戒心と思慮深さを保持しつつ、戦略的かつ積極的な対応が必要ではないだろうか。

○ 日本は、韓中の情報戦・宣伝戦に備えるだけでなく、積極的な対外発信が必要
 韓国と中国の反日政策が、それぞれ日本との2国間問題に止まれば、事態が落ち着くまで静観するのもそれなりの選択であろう。しかし、韓中が反日で共闘し、情報戦・宣伝戦を展開して問題を国際化している現実を見れば、静観は事態を拡大させるばかりで、決して有効な対処法ではない。注意深い態度を保ちつつ、同時に戦略的な対抗措置と積極的な対外情報発信が必要である。
 国際会議における日本人の沈黙は内外ともに衆知の所であるが、中韓によって突き付けられた挑戦に対して、日本人が美徳とする沈黙や控えめな姿勢は、時として有害である。
 そこで、わが国の対応については、改めて、基本に戻って考えることが必要であろう。
 例えば、中国は、「戦わずして勝つ」を最上の策とした「孫子」の思想の忠実な実践者である。このため、いきなり武力攻撃に訴えるというより、平時から、「輿(世)論戦」、「心理戦」および「法律戦」からなる「三戦」という軍事工作に、政治、外交、経済、文化などの分野の闘争を密接に呼応させる、いわゆるソフト・キルを謀略的に仕掛けて、わが国の弱体化や日米離反の対日戦略を展開している。
 この中国のように、また韓国もそうであるが、国を挙げて組織的な工作活動を行う国家に対しては、わが国もしっかりとした情報戦・対情報戦(宣伝戦、心理戦)の体制を作らない限り、到底十分な太刀打ちはできない。
 安倍政権になって、わが国でも昨年末ようやく国家安全保障会議が設置され、国家安全保障戦略が策定された。しかし、国家安全保障戦略を見ると、IV. 1.(7)項に「情報機能の強化」IV. 6.(2)項に「情報発信の強化」について記述されているが、情報戦・対情報戦については欠落しているようだ。また、国家安全保障会議の事務局である国家安全保障局は、総合調整役となる筆頭の「総括」、テーマ別の「戦略」「情報」「同盟・友好国」、地域別の「中国・北朝鮮」「その他地域」の6部門に分けられているが、焦点の情報戦・対情報戦を総合的に専管する部署は存在しないようである。
 したがって、国家安全保障局の中に、情報戦・対情報戦を専門に所管する部署を設け、国家安全保障戦略にもその基本方針を明示し、政府の一途の方針の下に、各省庁、自治体、NGOや国民が一体となって中国や韓国の反日活動に対抗する体制を構築しなければならない。
 また、中国には、中国共産党の対外宣伝のための国際放送を行うCCTV(中国中央視台)というテレビ局とCRI(中国国際放送)というラジオ局があり、24時間体制で対外発信を続けている。
 他方、わが国では、国の重要な政策、国際問題に関する政府の見解などについて正しく外国に伝えることがNHKの主要な役割として規定されている。しかし、平成25年度のNHKの予算のうち、国際放送テレビが約2%、国際ラジオが1%で、そのうち国家予算からの交付金は7分の1にしか過ぎない。(2014年2月5日の参議院予算委員会における佐藤正久議員の質問資料を参照)
 果たして、正しい情報やわが国の正当な主張が外国に隈なく伝えられているのか、甚だ疑問である。
 また、外務省が作成している領土問題や歴史認識に関する対外説明資料は、わが国の基本的立場や見解について述べているが、相手国の主張も併記して、それへの具体的かつ史実に則った反論を展開した資料は見当たらない。このように、依然としてわが国の対外情報発信の体制(手段、内容、予算などを含む)は、多くの問題を抱えている。
中国や韓国の批難に対抗して、領土問題、歴史認識、あるいは積極的平和主義の基本姿勢などに関する日本の主張をしっかりと国際社会に伝えることの重要性については、異論を差し挟む余地はなかろう。だが、そのために、情報戦・対情報戦の必要性を説けば、「特定秘密保護法」制定の時と同じように、直ちに一部のマスコミなどが戦前の「情報局」を持ち出して「いつか来た道」と叫ぶに違いない。
 
 しかし、「客観的な事実を中心とする関連情報を正確かつ効果的に発信することにより、国際世論の正確な理解を深め、国際社会の安定に寄与する」(国家安全保障戦略)ための体制作りは、まさに喫緊の課題である。官民一致協力してその確立に早急に取り組み、韓中「反日中華連合」の暴走を何としても防がなければならないのではなかろうか。


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