日台漁業協定締結:安倍官邸の「戦略的外交」
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所准教授
 丹羽 文生
 長い間、日台間の「棘」となっていた課題が、ようやく処理された。沖縄県・尖閣諸島の周辺での漁業権に関する日台漁業協議は過去16回行われてきたが交渉が難航し、2009年2月以降、中断されてきた。したがって、今回の日台漁業協定締結は壮挙と呼ぶに相応しいものである。
 台湾に大きく譲歩したとの意見も聞かれる。しかし、台湾漁船の操業を認めた対象海域は、日本の排他的経済水域(EEZ)と台湾が主張するEEZとが重なり合う部分であって、決して日本が一方的に妥協したというわけではない。「大人の対応」と見るべきだろう。菅義偉官房長官も「妥結した、しないにかかわらず、わが国の立場は変わらない」と説明している。
 筆者は、これまで何度も、この課題について漁業に携わる台湾の人々と意見交換をしてきたが、率直に言って、彼らの多くは「漁業問題としての尖閣問題」には関心はあっても、「主権問題としての尖閣問題」には全く関心はない。李登輝元総統に代表されるように、はっきりと尖閣諸島は日本の領土であると主張する有識者・知識人もいる。親中派と言われる馬英九総統は「主権は分けることは出来ないが、資源は分かち合える」と語っている。尖閣問題に強硬な態度を示してきた馬英九総統にしては現実的な対応である。
 加えて、今回の決定は漁業権よりも尖閣諸島を守ることを優先させた「安倍官邸」の「戦略的外交」と見るべきである。尖閣諸島の周辺を我が物顔で徘徊する中国への牽制となる効果だってある。
 先月11日に開催された政府主催の「東日本大震災2周年追悼式」の席で、安倍晋三政権は、台湾を、献花に際して国名を読み上げる「指名献花」に加えた。この扱いに反発した中国の代表が式典をボイコットするという「珍事」もあったが、東日本大震災に対して多大の義援金を寄せてくれた台湾に感謝の意を示すのは、当然の外交常識・礼儀であって、こうした安倍政権の台湾への配慮も今回の決定を後押しさせたと言える。これを機に日台関係が更に強化、発展することを期待したい。

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