澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -22-
天津大爆発事故(続)
政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年8月12日夜半、天津港で大爆発事故が起きた。現時点では、テロの可能性も捨てきれない。
 事故を起こした瑞海物流公司は、40種類の危険物質3000トンも保管していたと報道されている。これから、その杜撰な管理体制が問われるだろう。
 瑞海公司は張高麗(「上海閥」の現政治局常務委員)の親戚が経営していると伝えられていた。張高麗の娘 張小燕は李瑞環(元政治局常務委員・中央政治協商会議主席)の甥(弟、李瑞海の子供)と結婚しているという。瑞海公司は、李瑞海の息子 李亮が理事長らしい。そういえば、会社名が瑞海であり、李瑞海と関わり合い深いことを示しているのではないか。

 爆心には直径100メートルほどの穴があいた。地球へ飛んで来た隕石・彗星・小惑星の破片のような巨大クレーターである。今回の2度目の爆発はTNT(トリニトロトルエン)21トン(あるいはTNT24トン)分と言われた。しかし、ある研究者は実際の爆発はTNT100〜1000トン分で、マグニチュード4.0前後ではなかったかと主張している。
 中国共産党は今度の事故で、できるだけ死者数を少なく見せかけようとしている。8月15日、国家インターネット情報弁公室は、天津大爆発に関し“デマ”をネット上に流したとして、18のウェブサイトを永久的に閉鎖した。また、同弁公室は32のウェブサイトを1カ月の閉鎖処分にしている。これらのサイトでは、死者数は最低1000人以上、混乱した天津では商店が略奪されている、などと報じていた。
 だからと言って、共産党の発表した死者数を鵜呑みにすることはできないだろう。100人台の死者数ではすまないことを、3つのケース(全体の一部)を挙げて説明してみたい。
 第1に、火災の通報を受けた消防隊員が現場へ駆けつけた。しかし、彼らは水反応可燃性物質の存在を知らずに放水したと言われる。この大爆発で数百人の隊員らが死傷したに違いない。
 この消火活動に当たっていた消防士の妻が、天津当局から夫が亡くなったと伝えられた。だが、彼女はその遺体とは対面を許されていない。おそらく、遺体が溶けてしまったか、炭になってしまったのだろう。このような消防士が何人いるのだろうか。どんなに少なく見積もっても100人はくだらないだろう。
 第2に、爆心から200〜300メートルしか離れていない警察署(天津港公安局躍進路派出所)は、爆風で外壁しか残っていなかった。5階建ての大きな立派な建物が一瞬のうちに、廃墟と化した。
 事件当日、警察官が何人、建物内にいたのか知る由もない(当局が一切公表しないため)が、彼らは熱風であっと言う間に、黒焦げになったと思われる。仮に、その建物の中で100人の警察官が勤務ないしは就寝していたとしよう。誰も助かるはずはない。全滅である。
 第3に、約600〜700メートル離れた場所に「万科海港城」という瀟洒な高層マンションが建っていた。全世帯で約3370戸、約1万人が入居していたのである。
 当日の爆風で、マンションのほとんどすべての窓が吹き飛び、ガラスが部屋中に散乱し、一部壁にも穴があいた。そこの住人が何人亡くなったのか、何人負傷したのか、不明である。もしも爆発で10%の住民が死亡したとしたら、それだけでも1000人の死者となる。
 破損したマンションの写真を見る限り、ほとんど全ての世帯は住める状態にはない。現在、約2万人が現場から避難しているという。もしかすると、この「万科海港城」の住人の一部が中心になって天津市政府に対しデモを行い、マンションの“買い戻し”を求めているのではないか。
 たとえ同政府がマンションの“買い戻し”を行ったとしても、無論、それだけでは終わらない。爆発による補償や慰謝料はどうなるのか。そして、一体、誰が補償するのだろうか。
 若干話が横道にそれるが、2013年6月末の時点で、天津市の負債は、およそ2264億元(約4兆4000億円)と公表された。だが、翌年2月、汪洋副首相が、天津市の債務が5兆元以上(約100兆)にものぼることを明かしている。市政府は事実上、デフォルト状態である。

 ところで、香港『南華早報』の記者が、事件2日後(8月14日)、現場に近い天津泰達病院へ行った。その時、彼女は目が痛くなり、頭がふらふらしてきたという。当地には有害ガス等が発生している可能性が考えられる。
 確かに、現地入りした人民解放軍(「化学防護隊」)は、防毒マスクを着けながら作業を行っている。このような状態下では、天津港が機能不全に陥るかもしれない。中国経済の更なる減速が危惧される。
 今後、習近平体制は綱渡りの政権運営を強いられることになるだろう。



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