澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -70-
台湾・香港の若者とSEALDsとの違い

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 現在、我が国では、東アジアで起きた台湾「ひまわり学生運動」と香港「雨傘革命」、および日本のSEALDs(シールズ)の活動が“リベラル系社会運動”として同一視されているふしがある。
 確かに「ひまわり学生運動」と「雨傘革命」は、“膨張”が著しい中国に対し、今後どのように対抗すべきかという点で一致している。
 前者に参加した台湾の若者達は、2014年3月、台湾立法院での「サービス貿易協定」批准に反対して立ち上がった。これ以上、海峡両岸の経済関係が緊密化すれば、台湾が中国に飲み込まれるという危機感のあらわれだった。そこで、彼らは立法院を占拠するという挙に出た。
 他方、後者だが、2017年の香港行政長官選挙(初めて「1人1票」を採用)をめぐり、大学生を中心に中国に対する大規模な抗議運動が起きた。2014年8月末、中国全国人民代表大会が「民主派」候補者が出馬できないようにするため、香港の選挙ルールを突然、変更したのである。
 香港の若者のイメージとして、中国は平和に暮らしていた“3つの壁”(「ウォール・マリア」・「ウォール・ローゼ」・「ウォール・シーナ」)を脅かす『進撃の巨人』(諫山創)だった。
 実は、台湾と香港の「民主化運動」は共に連動している。台湾の「ひまわり学生運動」が香港の若者に刺激を与え、「雨傘革命」が起こったと考えられよう。彼らの運動には、近い将来、自分たちが中国に呑み込まれるのではないかという“恐怖”が根底にある。
 しかし、SEALDsの場合はどうか。我が国は(沖縄は別にして)政治的にも経済的にも、よほどの事がない限り、中国という「進撃の巨人」に呑み込まれる心配はない。だから、SEALDsがいくら「憲法9条遵守」や「戦争反対」を声高に叫んでも切迫感は伝わらないのである。
 このように、台湾・香港の若者とSEALDsとの間では温度差が大きい。両者は「似て非なるもの」と言えよう。

 ところで、もう一つ、台湾・香港の若者達とSEALDsの違いを挙げるとすれば、インターネットという環境の中で育ったか否かにあるのではないか。
 大雑把に言えば、旧メディア(テレビ・ラジオ・新聞等)は、いくら客観的(中道)を装っても、結局は編集者の思想に左右されやすい。そのため、右翼・左翼を問わず、知らず知らずに偏向してしまう。
 編集者は、膨大なニュースの中から自らが重要だと判断したニュースを一部ピックアップする。当然、大半のニュースは切り捨てられてしまう。だが、その中には、編集者さえ気づかない重大なニュースがたくさん含まれているに違いない。
 実際、今の台湾・香港の若者達は、インターネットの自由な情報空間の中で育った。ところが、SEALDsの主要メンバーは、キリスト教愛真高校と「平和教育」を標榜とする和光学園出身者が多いと言われる。
 特に、前者は島根県江津市にある私立の全寮制で、ネット環境とは無縁だったと伝えられている。もし、それが事実ならば大問題ではないか。
 第二次大戦後、香港では1997年までイギリス統治が続いた。だが、香港メディアは自由に情報を発信している。また、香港の中国への返還後も「一国二制度」の下、ごく最近まで香港には自由な情報が保障されていた。
 一方、台湾では日本敗戦以後、国民党が台湾を統治した(1949年、同党は中国大陸から台湾へ敗走)。国民党は台湾の統治機構を独占したばかりではなく、マスメディアも牛耳っている。
 そのため、大半の台湾人は国民党系マスメディアに「洗脳」されて育った。また、学校においても台湾人子弟は国民党による「洗脳」教育を施されている。
 ところが、21世紀に入って、SNS(Facebook・Twitter・YouTube・Instagram等)が急速に発達した。旧メディアの一方に流れやすい情報、受動的情報とは異なり、新メディアの出現によって自らもが発信する積極的情報へと変わった。
 それが、先日、台湾で実施された総統選挙・立法委員選挙での民進党大躍進にもつながったのだろう。若者が自分でモノを考えるようになり、国民党の「洗脳」から免れている。
 右も左も中道も、ありとあらゆる情報に接すれば、若者達は自ら考えられる。だが、旧メディアや学校教育という一方的な受け身の情報だけでは、どうしても思考が偏るのは避けられないだろう。
 想像するに、多くのSEALDsメンバーは、かつて国民党統治下にあった台湾人の状況に似ているのではないだろうか。



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