澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -105-
「くまモン」が架ける台湾と熊本県の橋

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年4月14日から16日にかけて、熊本県を中心とする大地震が何度も襲った。未だに余震が続いている。不幸にも何十人という方が亡くなり、何百、何千という方が被災され、何万人、何十万人もの方が我が家を離れて避難している。今後、1日も早い熊本県(大分県等)の復興が望まれよう。

 2011年の東日本大震災で、台湾から200億円以上の義援金が送られたことは記憶に新しい。今度の大地震でも台湾の反応の早さが際立っている。
 まず、同月14日、蔡英文台湾次期総統(来月5月20日就任)が、熊本県に対し、お見舞いのメッセージ(「被害が最小限に抑えられ、日本の友人たちが無事であるよう願います」)を送ってくれた。いくら台湾が我が国の隣国とはいえ、恐らく世界一素早い、熊本地震への対応だったのではないか。
 翌15日、台湾外交部(外務省)が、熊本県に対し1000万円の見舞い金を送る事を決めた。また同日、馬英九総統が安倍晋三総理にお見舞いの書簡を送っている。同時に、台湾外交部は見舞い金を1000万円から50万米ドル(約6400万円)へ増額した。
 『フォーカス台湾』(2016年4月16日付)によれば、翌16日、陳菊高雄市長が1カ月分の給与 約19万台湾元(約64万円)を寄付すると公表した。一般の人々からの寄付を募るため、陳菊市長がその先頭に立ったのであろう。まもなく高雄市は、熊本県に対する義援金の募集を開始した。
 高雄市は2013年9月に、熊本県と「国際交流促進覚書」を締結している(2015年10月には高雄と熊本を結ぶ中華航空定期便が就航)。2014年7月31日から8月1日の深夜にかけて、高雄市でガス爆発事故が起きた。その際、熊本県は約800万円の義援金を送っている。今回は、その御礼を兼ねているのだろう。

 それだけはない。我が国ではあまり知られていないが、台湾では「くまモン」が大人気である。2016年版カレンダーでは、「くまモン」が高雄メトロ(MRT)のオリジナルキャラクター「高捷(たかめ)少女」(萌えキャラ)と“コラボ”している。
 恐らく同島で「くまモン」は「ふなっしー」(千葉県船橋市非公認キャラクター)より、はるかに人気があるのではないか。したがって、当地で「くまモン」は日本の“マスコットキャラクター大使”的な存在だった。
 このように、台湾人にとって熊本県は馴染み深く、同県に寄せる想いは特別だと思われる。すでに、台北市内の「くまモン」をテーマにした「KUMA Cafe」でも募金を開始した。今回の熊本大震災では、「くまモン」が台湾と熊本県を更に強く結び付けていると言っても過言ではない。
 今度の地震に対して、4月15日、台中市の林佳龍市長や台南市の頼清徳市長がフェイスブック上で日本や熊本県への応援メッセージを発表した。また同日、台北市の柯文哲市長も自身のツイッターで、犠牲者に対し日本語で哀悼の意を示している。
 ちなみに、陳菊市長をはじめ、これらの市長らは、すべて台湾・民進党(系)の本省人(昔、中国大陸から渡台した漢族の末裔)である。翌16日、台湾・民進党も100万台湾ドル(約340万円)の寄付を決めた。

 話は変わるが、蔡英文次期総統は、もともと李登輝元総統に近い。1999年、李総統(当時)の「二国論」(中国と台湾は特殊な国と国との関係)を発表した。この「二国論」は蔡次期総統の発案だと言われている。
 また、よく知られているように、李登輝元総統は安倍晋三首相と緊密な関係にある。李元総統が訪日する度に安倍首相は秘密裡に会っているという。そのため、蔡次期総統と安倍首相は、かなり親しい間柄と推察できよう。
 ところで、今年1月16日、台湾総統選挙に勝利した蔡氏は、当選後、国際記者会見の席で、中国語(北京語)でスピーチを行っている。その際、中国語と英語訳では、一部、異なる個所があった。
 それは、蔡氏が「この台湾総統選挙に関心を持ってくれた世界の『友好国』に感謝する」と述べた部分である。
 英語通訳は、その部分を具体的に「米国と日本を含めた友好国」と、アメリカと日本を直接“名指し”したのだった。中国語では、米国・日本はまったく言及されていない。
 つまり、蔡氏が総統になった暁には、米国・日本と関係を強化したいというメッセージが含まれていたと言えよう。
 蔡次期総統が今度の熊本地震で反応が素早かったのは、そのためであった可能性もある。


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