澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -132-

「紅二代」が党幹部らの財産公開を要求


政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年7月1日、中国共産党は創建95周年を迎えた。そこで、習近平主席は演説を行っている。
 主な内容は、(1)一党独裁の堅持、(2)強大な軍隊の建設、(3)「反腐敗運動」の継続、(4)南シナ海等で「核心的利益」を守るためには一切妥協せず、(5)蔡英文政権の「台湾独立」を牽制、等である。
 その際、習主席は「2つの百年」(2021年には中国共産党創建100年、2049年には、中華人民共和国建国100年)に触れた。ただ、中国経済の“壊滅的”状況を見る限り、21世紀の半ばの建国100周年はおろか、共産党創建100周年でさえ迎えられるかどうか疑わしい。

 さて、その当日、「紅二代」(親が共産党の高級幹部。いわゆる「太子党」)の馬暁力らが、4ヶ月前、習近平主席宛てに送った書簡を公開した。きわめて異例である。

 馬暁力らは、その書簡の中で、共産党を救うためには、来年の第19回党大会で、全国の党代表・中央委員会委員(205人)・中央候補委員(171人)ら全員の財産公開を求めた。

 実は、この中国高官の財産公開に関しては、2013年3月、著名な北京の人権派弁護士、許志永(河南省出身、1973年生)らが、すでに習近平政権に求めていた(ちなみに、同時期、山西省の人権派、李茂林が7000人以上の署名を集めて、中国高官の財産公開要求を北京の人民代表大会弁公室に渡している)。

 許志永は2010年頃から「新公民運動」を開始した。憲法に謳っている中国公民の基本的人権を拡大する運動である。その一環として、許志永は官員の財産公開を求めた。

 これは、先進国では当たり前の要求だが、途上国の中国では、その要求自体が“不穏な言動”と見なされる。

 2013年7月、習近平政権は、許志永を逮捕した。翌14年1月、北京市第一中級人民法院は「公共秩序騒乱罪」で懲役4年を言い渡した。同年4月、北京市高级人民法院は、許志永の上告を退け、一審判決を支持している。

 言うまでもなく、中国の三権分立は形だけである。共産党が国家を指導する(換言すれば、共産党が国家の上に君臨する)ので、この種の問題は、共産党最高幹部(政治局常務委員)の意志によって、裁判のゆくえは決まると言っても過言ではない。

 だが、今回は、中国共産党員、それも「太子党」からの党幹部に対する財産公開請求である。習近平政権は、許志永らとは違って、馬暁力らを簡単には逮捕・起訴できないだろう。

 振り返れば、今年2月19日、習近平主席は、新華社・人民日報・中央電視台(CCTV)を訪問し、党への絶対的忠誠を誓わせた。

 しかし、すぐに3700万人以上のフォローワーのいる任志強(「太子党」の実業家で、習近平主席の盟友、王岐山とも親しい)が、それに対し異議を唱えたことは記憶に新しい。

 まもなく、任志強のアカウントは当局に閉鎖された。だが、結局、任は党籍を剥奪されず、1年間の観察処分を受けただけで済んでいる。

 もし、任志強が「太子党」でなかったら、党籍を剥奪され、起訴されたに違いない。そして、今頃、刑務所に収監されていただろう。

 今度の「太子党」による財産公開要求も、習近平主席にとっては悩ましい事案である。「上海閥」や「共青団」の人間ならば、すぐにでも厳しい処分を下すだろう。

 習近平主席としても、同じ「太子党」からの要求なので、あまり手荒な真似はできないはずである。けれども、習主席が、このまま何もしないで引き下がることも考えづらい。

 今後、「太子党」による財産公開請求に対して、習近平政権は、まったく無視するか、あるいは、“強権”を発動して黙らせるかのどちらかではないだろうか。

 ところで、なぜ中国共産党政権下では、党幹部らの財産を公開できないのか。

 普通、党幹部らは、国内外に“隠し財産”がある。また、彼らは海外でマネーロンダリングを行っている。だからこそ、習近平政権は、党幹部らの財産公開に消極的になるのだろう。

 また、仮に、党幹部らが、自らの財産を公開したとしよう。その時、お互い、この財産はどうしたのか、と追及し合うだろう。それ自体が、権力闘争の様相を帯びるに違いない。


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