澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -423-
中国発「新型肺炎」の真実

.

政策提言委員・アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司

 今年(2020年)1月23日(春節直前)、突然、習近平主席が登場し、中国発「新型コロナウイルス」(以下、「武漢肺炎」)に関する発表を行った。
 だが、習主席は、その発表の中で「武漢」という都市名を一切言及していなかった。そのため、多くの武漢市民は、我々は中央政府から見捨てられたのではないかという疑念を持ったという。
 他方、当日、中国当局は、何の前触れもなく、武漢駅や飛行場、高速道路を封鎖し、自動車まで規制した(ただし、人口1,100万人の武漢市から“脱出”した市民は500万もいる)。そして、武漢市だけではなく周辺の黄岡市や他の都市まで、全面封鎖に踏み切った。今後、封鎖された諸都市、食糧やマスク・消毒液等をはじめとする医療品の欠乏は必至である。
 結局、中国では、1月25日までに、ペスト流行等「特に重大な衛生安全事件」に対応するため、北京市・上海市を含め、各地方都市は「1級」態勢に入った(街の封鎖及び集会の中止等、強制措置が可能)。
 その2日後の27日、李克強首相がようやく武漢入りしている。
 実は、中国政府は、2002年~03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)発症の際、しばらく情報を隠蔽していた“前科”がある。
 また、2018年8月以降、流行り始めた「アフリカ豚コレラ」(ASF)に関しても、北京政府は、何度も繰り返し、「中国はASFをコントロールしている」と言っていた。
 ところが、実際には、中国共産党はまったくコントロール不能で、中国国内31省市全域でASFを蔓延させた。そして、東アジアや東南アジアまで、ASFを拡散させている。実際、ASFに関して、北京が初動対応を誤ったばかりか、初期段階で情報を隠蔽していた疑いがある。
 これは、果たして、中国共産党にとって“面子”の問題なのだろうか。大国として格好が悪いから、情報を隠そうとするのか。
 それとも、『孫子』の教えに従って、敵(国)を混乱させるために、偽の情報を流そうとするのだろうか。あるいは、共産主義体制自体に、情報を隠す性癖があるのだろうか。
 いずれにせよ、中国政府の隠蔽体質には問題があるだろう。
 このような状況にもかかわらず、我が国をはじめとする国々やWHO(世界保健機関)は、北京政府が小出しに発表する数字を、逐一、報道している。
 上述の如く、同政府が発表する数字は、ほとんど意味を持たない。数字そのものが、中国共産党によって“加工”されているからである。
 意外にも、SNS上で、医療関係者の指摘する数字の方が、真実に近いのかもしれない。彼らの情報によれば、9万人~10万人が感染しているという(15万人~20万人説も存在する)。
 仮に「武漢肺炎」の致死率が3%(4%説もある)だとすれば、感染者10万人のうち3,000人が死亡したか、今後を含め、死亡する恐れがある。感染者が20万人ならば、その2倍の6,000人となるだろう。
 さて、今回の「武漢肺炎」と前回のSARSとの違いは何だろうか。
 第1に、前者は潜伏期間がSARS(最大10日)と比べて長い。最大14日と考えられている。当然、1人の罹患者が、病気を他人にうつす確率が高くなる。
 第2に、「武漢肺炎」は、SARSと違って、潜伏期間中にもかかわらず、他人に感染させる。
 第3に、「武漢肺炎」では、肺炎という症状が発生しないで、熱が出ずに死亡するケースがあるという。つまり、平熱にもかかわらず、「人→人感染」を起こす可能性がある。
 したがって、北京政府は、今回、武漢市を中心に数千万人を一定の地域に閉じ込め、移動を制限した。けれども、前回のSARSの際には、中国のどの地域も封鎖などしていない。
 また、今回、中国政府は自国民に対し、1月24日から国内の団体旅行を禁じた。更に、北京は、1月27日から、中国人の海外団体ツアーも禁止した。SARSの時は、団体旅行禁止措置など取られていない。これまた異例である。
 欧米の伝染病学者は、「武漢肺炎」のRO(1人の患者が何人に感染させるかを示す数値)は3.3人~3.8人と推測している(1人の患者によって4人に感染させられるとの推測もある)。
 一方、我が国の安倍政権は、この「武漢肺炎」に関して、他国や他地域と比べ、危機意識がきわめて薄弱である。
 武漢から訪日する中国人観光客に対して、何の規制を設けず入国させた。そのため、武漢からやって来た4人の中国人が「武漢肺炎」を日本で発症している(1月27日現在)。
 無論、日本においてはインバウンド・ビジネスも大事だが、日本国内で「武漢肺炎」が蔓延したら、それどころではなくなるだろう。