【特集】米・露・中・韓情勢が及ぼす日本への影響

混迷の深まるウクライナ情勢
― ロシアの影響圏拡大への動きと対応に苦慮する欧米 ―

政策提言委員・拓殖大学客員教授 矢野義昭

yano  混乱の続いたウクライナでは9月5日、ウクライナ政府と東部の親露派勢力の代表が漸く停戦に合意した。しかし、一部では戦闘が続いており、このまま和平につながるか否かは依然不透明である。また、ウクライナ情勢を契機に、ロシアと欧米諸国の緊張関係が高まっている。ウクライナ情勢が今日の状況に至るには、長い歴史的背景と複雑なウクライナ国内外の事情がある。

1.ウクライナの複雑な歴史と潜在する東 西対立
 ウクライナ共和国は、面積が約60万平方キロ、人口は約4千5百万人で、住民の約8割はウクライナ人だが、南部を中心にロシア人が約2割近くを占めている。1667年以降、ウクライナは東西に支配体制が分かれた。西部地区は、永らくポーランドやオーストリア・ハプスブルグ帝国の支配下にあり、ヨーロッパへの帰属意識が強い。東部地区は1667年以来ロシア領となっており、ロシア系住民も多く、ロシア語も話され、親露的な感情も強い。
 西部地区も18世紀には大半がロシア領となったが、リビウなどの最西部地区が編入されたのは第2次世界大戦以降のことである。西部は、ウクライナ人が大半を占め、言語的にもウクライナ語が主であり、反露意識が強かった。ロシア革命後の農業集団化では1割が餓死し、第2次世界大戦時にソ連軍に対するパルチザンが起こり、ソ連軍の反攻後は徹底した弾圧を受けた。
 他方の東部地区は石炭、鉄鉱石などの資源に恵まれ、重工業地帯として発展した。特にソ連時代にはハリコフ、ドニエプロペトロフスク、ニコラエフなどはミサイル、艦艇、戦闘機、戦車等の製造工場、整備工場が集中する軍需工業地帯であった。今でも航空・宇宙・軍需産業の中心地であり、ロシアとの関係が深い。例えば、ハリコフ機械工場の製品の7割はロシアに輸出されている。
 しかし、ウクライナ共和国として独立してからは、軍需生産が停滞し、研究開発基盤も崩壊して、新たな戦闘機、戦車などの新規開発と生産も殆ど行なわれていない。例えば、ソ連時代空母を建造したニコラエフスク造船所を持ちながら、ウクライナ海軍は1隻の新造艦艇も受領していない。

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