【特集】第31回定例シンポジウム報告「台湾の現状と日米台の安全保障」

 第1部「日台の歴史と日台関係の現状」

≪基調講演≫ 「なぜ日本の知識人は台湾問題で声をあげないのか」
―日本をナチス・ドイツのアジア版と解釈した連合軍の歴史解釈の誤りとの関係で―

東京大学名誉教授 平川祐弘氏
 本日はお招きいただきありがとうございます。私はご紹介にありましたように、以前東京大学ではダンテの『神曲』、その後は荻窪の読売カルチャー・センターで『源氏物語』を英訳と照らし合わせて、いまも教えている文弱の徒であります。それがなぜ本席に顔を出したか。

日本人に生まれて、まあよかった
 私は6月に上野で開かれた台湾の国立故宮博物院の展覧会で「あら平川先生」と呼び止められ、さてはその昔台北で教えていた頃にお目にかかった女性かと足を止めました。ハンドアウトに書きましたが、私の著書『日本人に生まれて、まあよかった』という新潮新書に写真が出ておりまして、初対面ですが平川と認識し「平川先生にお目にかかれて、まあよかった」と、そうお話しかけになりました。そして日本戦略研究フォーラムの趣旨をご説明になり、この会でお話をするようお誘いになりました。その時の長野禮子さんがきっかけで本日参上した次第でございます。

Cambridge History of Japan / Japan’s turn to the West
 初めに私と米国・中国・台湾の関係について個人的な話を申します。36年前、プリンストン大学へ招かれてCambridge History of Japan『ケンブリッジ日本史』の19世紀の巻の「日本が中国から西洋へ視線を転じた」、英語で言うと「Japan’s turn to the West」という明治維新前後の日本の文化史的方向転換について、私は一章を書きました。日本人の第一外国語が、漢文から英語に代わった脱漢入英したという方向転換であります。
 私を招いた教授は、日本の近代化研究で知られたマリウス・ジャンセン教授で、話をしていたらジャンセン氏はスティーブンソン(Stevenson)が大統領に立候補した際、選挙の運動員として手伝ったと言いました。当時の私は東大教授で、国立大学の教師は公務員法で選挙運動は禁じられており、それから日本の学者先生はお高くとまっていて、実際政治など何か下等な事のように見做す気風がありました。そんなだけに驚いて「なるほどこれがアメリカだ。アメリカは民主主義の国だな」と思いました。それで私もデモクラシーを信奉する一市民として国際政治についても発言しようと思い…それから東大名誉教授にあるまじき、こんなTシャツを着て参りました。実はこれは台湾で教えていた時、デモに参加したからであります。
 それでこの5月「『朝日新聞』を定期購読でお読みになっている皆様へ」という朝日新聞批判を付して、併せて、虚言症の吉田清治の朝鮮人慰安婦強制連行説を事実として『太平洋戦争』という日本悪者史観の歴史書を岩波書店から出した家永三郎教授批判を書いて『日本人に生まれて、まあよかった』という本を出しました。
 そしたらそれがよく売れまして、8月には朝日新聞は吉田証言がフィクションであったこと、強制連行は誤報であったことを認め、謝罪するに至った。尤も私のせいだけではないと思いますが。

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