【特別研究】

冷戦後の米国の大戦略とオフショア・バランシングをめぐる議論

特別研究員 関根大助
 オフェンシブ・リアリズムという理論を確立した国際関係論の権威であるシカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマーが、昨年末に来日した。予てより自身の理論を応用して中国の台頭を警戒する発言を繰り返していたことから、彼の今回の来日は注目を集めたが、それに比較して、以前から「米国は大戦略としてオフショア・バラシングを採用すべきだ」と主張してきたことについてはあまり注目されていない。ところがもし米国がこの大戦略を採用することになると、必然的に日本にも大きな影響を与えることになる。
 このような事情を踏まえて、本稿ではミアシャイマーが提唱している海洋国家の大戦略であるオフショア・バランシングを中心に解説する。全体の流れとしては、まず冷戦後の米国の大戦略の要点に関する説明を行い、次に米国の大戦略の一類型であるオフショア・バランシングを説明しつつ、この戦略が国際情勢の中で復活してきた事情を探り、最後にそれが本格的に採用された際に日本が直面する課題について考察していく。

冷戦後の楽観論と「幻想の平和」
 冷戦末期の1989年に、米国では政治学者のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり?」というタイトルの論文の中で、自由民主主義が共産主義や全体主義に勝利し、民主政治が政治体制の最終形態であることを主張した。更に1990年には、影響力の強いジャーナリストであるチャールズ・クラウトハマーが、米国は唯一の超大国になったとして「世界中の国々を民主化しなくてはいけない」と主張している。この頃から米国の対外政策エリート内では、ソ連という最大のライバルに勝利し、米国の価値観の勝利と米国による世界の一極化を確信する雰囲気が出てきたと言える。
 このような米国のエリートたちは、冷戦後は概して「リベラルな覇権ビジョン」をもっていた。これは、世界で米国の圧倒的優位を維持し、市場経済と民主主義を世界に拡大させることを意味しており、実際にもその方針を大戦略として採用しつつ、冷戦終結以降、米国は長期間にわたって武力による介入や戦闘を遂行してきた。
 このような大戦略を「幻想の平和」であるとして90年代半ばから批判を繰り返していたのが、テキサスA&M大学教授のクリストファー・レインである。

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