【特集】第32回定例シンポジウム「『歴史戦』をどう闘うか」
《報告》
「リビジョニスト」批判の背景にある欧米の心理

コマツ・リサーチ&アドバイザリー代表 小松啓一郎
欧米人の感覚
 今日のシンポジウムの中で「リビジョニスト」という言葉が何度か出ましたが、このことを含めて色々と考えていきたいと思います。
 個人的な話ですが、私が銀行マンとしてニューヨークのウォール街で為替トレーダー等をしていた当時、今ちょうど問題となっている歴史認識問題も含めて海外での日本のイメージが、それまでの私の抱いていたイメージとは全く違うことに衝撃を受けました。最初に気になった認識のズレはビジネス上のことでしたが、何故こんなにも違うのかを追求したくなり、英国のオックスフォード大学に入学して、結果的に博士号を取得しました。
 しかし、その際に選択したテーマには大きな問題がありました。私はこのイメージ・ギャップの最も大きい事例として「日米開戦の原因の中にも双方の大きな認識ギャップと誤解があった」という事実をテーマに選んだのです。しかし、英国は日本の旧敵国であります。1990年代初めの米ソ冷戦終結直後の時期でしたが、戦争問題になると、英国のメディアの取り上げ方は、冷戦中の朝鮮戦争やベトナム戦争における旧ソ連の「悪意ある動き」を繰り返し批判するとともに、第二次世界大戦終結時までの日本の行動についてもソ連と同列に見做して厳しく批判する立場に立っており、一方的に「日本側が悪かった」との観点に終始しているのが気になりました。
 また、日米開戦当時の歴史を専攻する英国の教官たちは「そんなテーマを選ぶのは間違いだ」と忠告し、「第二次大戦が起きた原因については、既に決着がついた問題だ。これについて新しく書くような新資料が出て来る余地はまず無い」と言うのでした。「学位取得を目指すのであれば、学会の先端の研究に何かを足せるようなものでなくてはいけないが、(日独両国の過ちが起こした戦争原因については)新事実のようなものを出せる余地がどこにも無い。資料は出尽くしている」と言うのです。私の研究はそういう状況から始まったのでした。
 しかし、実態としては未だ「資料が出尽くした」と言えるような状況ではありません。例えば、日本の防衛省防衛研究所では、日米開戦の経緯に関して読むべき基礎的な推薦図書を400冊ほど挙げていたにも拘らず、その中で英訳されたものは僅か4冊しかありませんでした。つまり、日本側にも海外にこれらの新しい文献を紹介していないという責任があるのです。


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