【特別寄稿】
中国の景気を示す正確な数値と習近平政権

政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司
中国の預金・貸出金利
 よく知られているように、中国政府が発表する経済関係の数字はあまり信用できない。中国政府はしばしば数字を改竄するからである。典型的なのは、GDPだろう。地方政府の大半の役人は出世願望が強いので、よくDGPを水増しする(中国では、GDPの大きさで出世が決まることが多い)。だから、中国全体のGDPは実態よりも数字が大きくなってしまう。このように、中国の経済統計に関する数字はあてにならない。
 李克強首相が、2007年、遼寧省のトップだった時代に、中国の経済数値で信頼できるのは、@電力消費量、A貨物輸送量、B銀行の貸付額ぐらいであり、あとの数字は殆どが“人工的”だと漏らしたことがある。
 一般に、中国の経済環境を考える際、@不動産価格の変動、A輸出入総額、B海外からの対中投資額、C鉱工業生産高、D電力消費量、E自動車の売上台数、F消費者物価指数など、様々な指標から景気動向を探る。
 だが、中国の景気判断するにあたり、極めて信頼に足る数字があった。それは、銀行の預金金利と貸出金利である。この数値を見れば、経済状況が手に取るようにわかるだろう。
 かつて我が国では、日本銀行の政策により、景気が良ければ“公定歩合”は引き上げられ、逆に、景気が悪ければ“公定歩合”が引き下げられた(現在、日本銀行は、“公定歩合”「基準割引率および基準貸付利率」とタームを使用している。約10年前頃から“公定歩合”というタームは殆ど使用されていない)。
 中国の経済規模は米国に次ぐ世界第2位だが、中国は未だ発展途上国とも言える。だから日本の“公定歩合”に相当する「預金・貸出金利」の動向を見れば、景気の良し悪しが容易に判断できるだろう。
 そこで、2006年8月から2015年5月までの中国人民銀行(中央銀行)による「預金・貸出金利」動向を見てみたい。
 まず、07年は、中国経済にとって素晴らしい年だった。同年には6回の利上げが行われている。1年定期預金利は、(06年8月は2.52%)→2.79%→3.06→3.33→3.60→3.87→4.14%と着実に上昇している。他方、1年以上3年までの貸出金利は、(06年8月は6.30%)→6.50→6.75→7.02→7.20→7.47→7.56%とじりじりと上がった。
 この07年12月の《預金金利4.14%・貸出金利7.56%》は、翌年秋に起きた「リーマン・ショック」まで続いた。明らかに、景気が良かったのである。
 しかし、「好事魔多し」である。08年9月15日、米有名企業リーマン・ブラザーズが経営破綻したのを契機にして、世界全体の景気後退が明らかになる。「グローバル化」した世界では、直接、中国にも、その影響が及んだ。
 「リーマン・ショック」後、中国の「預金・貸出金利」はどのような推移をたどったのだろうか。


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