【特別研究】フランスからのインテリジェンスリポート(その6

グローバルテロリズム:弱まりを見せないダーイッシュ
―アルカイダとの競争、そしてサイバー攻撃も―

研究員・S.Y. International代表 吉田彩子

yoshida 近年のテロリズムは新しい形のテロとしてその脅威を増している。国境に関係なく、国内、国外、そしてサイバー空間においてもテロ攻撃が行なわれ、テロリストの組織も以前のように整った組織になっているとはいえない。
 2014年は国際テロリズムにおいて過去最高の死亡者を出しており、2014年1月〜9月には1万3000件のテロリズム事件により3万1000人が死亡している(2013年は1万1500件で2万2000人死亡)。このうち半分はイラク、パキスタン、アフガニスタンの3国で起こっている。その中でも特にイラクの首都バグダッドは連日のようにテロが起こっており、死亡者数トップである。そして2014年は特にダーイッシュ(Daesh:イスラム国、ISIL)によるテロが多くなっている。

アルカイダに勝る脅威となったダーイッシュ
 アラビア語で「イスラム国」を意味する「ダーイシュ」(Daesh)だが、このグループは、2006年1月に、AQI (Al-Qaida in Iraq、イラクのアルカイダ)がほかの5つのジハードグループと一緒に「ムジャヒディーン諮問評議会」(Mujahideen Shura Council)を作ったのが始まりである。その後、2006年10月に ISI (Islamic State of Iraq)となり、2013年4月にISIL (Islamic State of Iraq and the Levant) となった。2014年6月29日には、国際法上は承認されていないものの、事実上シリア―イラクに跨がる“イスラム国の設立”を宣言し、アブー・バクル・アル・バグダディ(Abou Bakr al-Baghdadi)を“カリフ”(後継者を意味する世界中のイスラム教徒の指導者)として「イスラム国」(IS:Islamic State)と名乗るようになった。イスラム教スンニ派サラフィー・ジハード主義*1であり、名前を変え、組織を拡大しながら、特にイラクの隣国シリアにおける内戦で残虐行為を繰り返し、力をつけてきたと言える。
 彼らは、イスラム教シーア派であるイラクのマリキ政権(イラク人口の60%がシーア派)、そして“ジハード主義ではないスンニ派”の敵である。戦闘員の数はCIAが2014年9月に、「シリア―イラクに約2万人〜3万1500人の戦闘員がいる」と発表したが、同時期に、イラク政府の軍事アドバイザーは、「約10万人いる」と述べている。ダーイッシュは、シリア―イラクに跨る25万㎢にわたる領土を支配下に置いており、このグループの特徴として、欧米人の戦闘員が多数いることが挙げられ、ダーイッシュのメディアを使ったプロパガンダによる欧米人のジハード戦闘員のリクルートが問題視されている。グループの幹部には元フセイン政権下での軍の上層部もいる。


*1 サラフィズム(salafisme)とは、初期のイスラムに戻ろうとするイスラム教スンニ派原理主義。信者に戒律を厳格に守るように求める保守的な流れである。また、サラフィズムには大きく分けて3つの流れがあり、1つ目は伝統的なサウジアラビアよりの保守派でWキエティスム(Quietisme)Wである。目的は社会をイスラム化することであり、厳格な戒律の実践を求める。


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