【特別寄稿】
「イスラム国」のテロへの挑戦

元シリア国駐箚特命全権大使 国枝昌樹

 2015年11月13日の夜、パリの繁華街で起きた同時多発テロは死者130人、負傷者350人余りの犠牲者を生むフランスでは未曾有の規模の無差別大量殺人テロ事件だった。犯人達は「イスラム国」に関係し、同組織は犯行声明を出した。本稿ではこの事件を中心に「イスラム国」によるテロ事件を分析し、シリア内戦の文脈の中で検討したい。尚、この事件を前にして「イスラム国」による外部世界での大規模テロ事件が何件も起きていることを忘れてはならない。10月にはトルコのアンカラで死者102人を出した自爆テロが発生。同月末にはロシアの民間航空機が離陸前に搬入された爆発物によりシナイ半島上空を飛行中に爆破され、乗客乗員224人が犠牲になった。パリ同時多発テロの前日にはレバノンの首都ベイルートで2人の自爆テロにより43人が殺される事件が発生している。

パリ同時多発テロ事件の特徴
 パリの事件には顕著な特徴がある。いくつか例示すれば次のようになる。
 (1)それまで欧州で起きた「イスラム国」関係者によるテロ事件は欧州で育った市民による単独ないし極めて少数のメン
  バーによって実行されていたが、今回は20人に及ぶ大規模な組織的犯行だった。
 (2)今回の事件は無差別大量殺戮事件だった。
 (3)犯人達は犯行に当って自分達を隠そうとせず、犯行実施後に容易に身元が判明することに全く躊躇していな
  かった 。
 (4)犯人の大部分は、事件前に警察治安当局により要注意人物と認識され、監視対象になっていた。つまり、少
  数を除いて事件の中核的メンバー達はいずれも当局の注意を引いていた人物達だった。
 (5)「イスラム国」は基本的な指示は出したが、犯行の形態、時期、場所等については犯行グループの判断に委
  ね、使用武器弾薬類も基本的に自分達で調達していた。しかも非常に安価に実施された。

 2015年1月のシャルリー・エブド誌編集部襲撃テロ事件までは、一連のテロ事件の犯人達は大体標的を特定していた。



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