【特集】第33回定例シンポジウム報告「日本の領域は守られているのか」
《基調講演》
地政学的分析のススメ

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 宮家邦彦

この伝統あるフォーラムに呼ばれたのは何かの間違いではないかと非常に胸を痛めておりまして、平林会長におかれては後悔するんじゃないかと思っております。平林さんについては実は私言いたいことがございまして、皆様にも是非聞いていただきたいと思います。
 私は外務省入省後の専門言語をアラビア語にされてしまったのですが、誰がしたと思いますか。平林さんです。平林さんが人事課の首席事務官で、「この宮家って奴は煮ても焼いても食えない、じゃあアラブに行け」って言われて送ってくれたんです。ですから、入省当時、平林さんと言えば私にとっては「A級戦犯」だったんです。ところが今は「A級恩人」です。あのときに中東に行かなかったら、そして外務省を辞めなかったらこれからお話しするような内容は絶対話せないと思っていました。あのときアラブに行って中東屋をやり、色々な形で視野が広がりました。どのくらい広がったかを本日見て頂きたいと思います。

地政学的・戦略的議論の不在
 何故日本では地政学的、戦略的な議論ができないのか。まず、我々は空想的平和主義の夢見る「夢子」ちゃんなのです。冷戦時代、余りに抑止が効いた為に、抑止の重要性を皆忘れてしまったのです。次に、実践を前提としない安全保障議論ばっかりやっているからです。こないだの安全保障関連法案を巡る国会審議でもそうです。ひどいものです。誰も戦場には行ったことがないのです。そして、兵站の軽視、諜報の軽視、軍事の軽視が挙げられます。これを行っている限りまともな議論なんて絶対できる訳がないのです。

中国の膨張と縮小と海洋戦略
 本日お話ししたいのは、中国の話です。中国を地政学的にどのように見たらよいのでしょうか。この色の濃い部分は、漢民族の中国です。そしてその東西南北にいる蛮族を、薄い色で塗っています。これから、2100年の中国の歴史を、21秒でお見せします。紀元前2世紀の後漢の時代、南北朝の時代、唐の時代で大きくなって、だんだん小さくなって、元に呑み込まれてまた復活して、また小さくなって、今度は満州がやってきて、ロシアが南下し、日本が入ってきて、現在に至ります。地図を見る限り、漢民族の敵は北から来ています。だから万里の長城が造られたのだと私は思います。


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