【特集】第34回定例シンポジウム報告「沖縄を救わねばならない」
《講演》
沖縄「基地問題」の背景

特別顧問・元アメリカ国務省日本部長 ケビン・メア

 こんにちは。皆さんご承知のように、私は2006 年から2009 年の3 年間、在沖米総領事を務めました。在任中は様々な挑発的行為も受けましたが、仕事としては本当に充実していたと思っています。

日米安全保障体制から見た「沖縄問題」
 所謂、沖縄問題を理解するには、その背景にある日米安全保障(以下、日米安保)体制自体についても考える必要があります。普天間基地だけではなく、日米安保体制がどういうものなのかについても考えないと、基地問題は理解しにくいと思います。これを理解していないことが、沖縄の政治家の一番の問題だと考えております。
 例えば日米安保体制は簡単に言うと、日米で役割・責任を分担しています。憲法第9 条を踏まえて、日米双方がどのような貢献ができるのかを考える必要があります。日米安保条約第6条にはっきり書かれているように、アメリカの責任は2 つあります。1 つは日本の防衛に寄与すること、もう1 つは極東の平和維持に寄与することです。よく沖縄の基地反対派が、このような訓練は日本の防衛のためではないから条約違反だと主張しますが、それは誤解です。
 では日本の役割は何かと言いますと、日米安保条約には、「日本の基地、施設を提供する」ということが書かれています。アメリカ政府や米軍から見ると、使うことのできない基地では意味がありません。基地が使えないのであれば日米安保体制自体の意味がなくなると考えているからです。
 私は沖縄に赴任する前は駐日米国大使館安全保障部長でした。主な仕事は、米軍が日本に対して自分の責任を果たせるように基地の使用を守ることでした。その観点から見ると、日本が日米安保体制に対してどのような貢献ができるかについての考え方は、30 年前に比べると進化しているのは事実です。例えば1989 年の湾岸戦争発生時、私は駐日米国大使館安全保障部副部長でしたが、アメリカ政府内では日本がイラクに自衛隊を派遣して戦うことなど誰も期待していませんでした。しかし、2001 年の同時多発テロ発生時には、アメリカ政府は自衛隊の戦闘行為こそ期待していなかったものの、イラクの再建やインド洋での給油活動等が実現したため、より柔軟になっていると感じました。そして最近は、集団的自衛権の行使を一部容認する等、良い方向に向かっていると思います。そのような流れの中に、所謂「基地問題」が存在しています。残念ながら個人的経験から言えば、殆ど沖縄の政治家は保守派であれ革新派であれ、基地問題を現実的問題として考えたくないという政治家が多いということです。
 日米安保体制の下では、大きな節目がありました。2005 年に2 プラス2 の枠組み内で「日米同盟:未来のための変革と再編」が共同発表されましたが、その中で一番注目されたのは基地再編についてでした。基地再編には2 つの重要な目的がありました。1 つは沖縄その他の基地において基地から生じる負担をできるだけ軽減すること、もう1 つは両国ができ得る限りの抑止力を向上させる必要がある、ということです。つまり、共同発表文書では、新たな多様な脅威に対処できるようにできるだけ抑止力を向上させると同時に、基地周辺の県民の負担を軽減しようという内容です。もし負担軽減だけの目的であれば、ただ基地を閉鎖すれば済むことです。しかし、様々な脅威があるため、それはできません。どのような脅威があるかというと、この地図を見てください(図1)。これを見れば沖縄の戦略的位置付けは一目瞭然です。中国が太平洋に進出するときは南西諸島付近を通るしかありません。


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