3月11日の大地震ならびに大津波でお亡くなりになった方々のご冥福を
お祈りするとともに、被災者の方々に心からの御見舞いを申し上げ、
一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 
 Ø 尖閣諸島沖合事件に関する緊急提言
 
尖閣諸島沖合における中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、中国人船長を処分保留のまま釈放したことは、極めて遺憾な処置であり、軍事力を誇示した中国の恫喝に屈したことは極めて深刻な問題であると考える。
ここに、日本戦略研究フォーラムの会長、理事長を初め政策提言委員の提言及び所見を掲載する。(原文のまま)

九州の離島・島嶼防衛要領に関する一提言

1. 民主党の国防政策――「新安防懇」報告書と2010年版防衛白書 厳密に言えば「新安防懇」報告書は、単なる提言であり、民主党の防衛政策とはいえない。しかし、これが新「防衛計画の大綱」に反映されることを考えれば、民主党の政策に準じるものと見なすことができよう。私見としていえば、中々良くできた提言だと思う。問題は民主党・菅政権が財政逼迫の中で、これを本気でやる気があるかどうかだ。その意味では、「新安防懇」報告書は、民主当の国防に責任を担う「本気度」を試す「リトマス紙」になるものと思う。
 「新安防懇」報告書及び2010年版防衛白書においても「離島・島嶼の安全確保」について取り上げこれを重視する姿勢を明示している。特に「新安防懇」報告書においては「離島・島嶼の安全確保は日本固有の領土及び主権的権利の保全という主権問題であるが、こうした地域への武力攻撃を未然に防止するためには、平素からコストをかけて動的抑止を機能させることが重要である」と述べている。
 また、今次「新安保懇」報告書で注目されるポイントとして「安全保障戦略を支える基盤」を整備する上で「オールジャパン体制の構築」を掲げている。財政事情が厳しく、防衛予算の増額が困難視される中で、「より効果的な危機管理・安全保障行政を推進するには、省庁間、中央・地方間の垣根を越えた連携が必要である」と強調している。戦後、国防を忌避する風潮が高まり、国防の任は、憲法上その存在さえ論議された自衛隊に丸投げするような傾向があった。この点から見て、今回打ち出された「オールジャパン体制の構築」というポリシーは、大いに評価できる。
2. 九州離島・島嶼防衛に関する一提
 九州の離島・島嶼防衛については、防衛省・自衛隊が鋭意企画・実行することだろう。私は、今次「新安保懇」報告書が取り上げた「オールジャパン体制の構築」という観点から、九州離島・島嶼防衛の具体的要領を以下の通り提言したい。下記の小論は、筆者が自衛隊現役時代に書いたもので、若干の経年変化がある。しかし、当時の「着想」を鮮明に残すために、敢えて手を加えずに紹介することとした。
 私は、2002年3月、佐賀県目達原にある陸上自衛隊九州補給処長に着任した。九州補給処の任務は九州防衛を担う陸上自衛隊西部方面隊の後方(兵站)支援である。
 ところで九州には2522の島が存在する。このうち有人島が191、無人島が2331である。冷戦崩壊以降、ソ連の北海道侵攻のリスクが低下し、朝鮮半島や中国・台湾の緊張の高まりにより九州防衛の重要性がクローズアップされる中、西部方面隊にとって今や離島防衛は最重要課題になりつつある。
 五島列島の最北端の小島、宇久島に生まれた私にとって、離島防衛は単に防衛だけの視点だけでは語れない。それぞれの島(勿論有人島)には固有の伝統・文化が根付いている。単に物理的に島を防衛するだけではなく、これら島固有の伝統・文化までも守る事こそが、離島防衛だと思う。
 かかる観点から、島を外国の侵攻から守る以前にやらなければならないことは、有人島からの人口流出、それが更に高じて無人島になることを阻止する事が絶対に必要である。
日本国中で「限界集落」が拡大している。九州離島の有人島も同じ問題−謂わば「限界島」問題―を抱えている。私の故郷・宇久島を例に取ると、大東亜戦争直後のピーク時に1万2000人余りいた人口が2003年現在では2000人程度に激減し、かつ高齢化している。年間に生まれる新生児は、3〜4名程度だという。私が子供の頃は5校もあった小学校が、今では統合され1校のみ、しかも、1学年4〜5名程度(教師の師弟を含む)という有様。この子供達が、将来島から出ずに100歳まで生きると仮定しても300から400人となる。現実的には、島の人口は近い将来には100名を下回るのは確実だろう。
 無人島化した実例がある。宇久島のすぐ南にある野崎島の場合は、島民は最盛期には131人であったが、昭和46年(1971年)に残っていた6世帯31人が島を去り、以後は無人島となってしまった。
野崎島にはその昔、神功皇后が大陸遠征の途上立ち寄り、航海安全を祈願して太刀一振りを奉納したと伝えられる由緒ある歴史の島である。無人の野崎島に残る野首教会は、ユネスコの世界遺産(文化遺産)暫定リストへ掲載が決まった「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を構成する教会の一つである。このように、日本で人口の減少が予想される中、九州の離島においては本島以上に人口流出の加速が懸念される。
 かかる九州の離島・島嶼からの人口流出、引いては無人島化を防ぐ事こそが離島防衛の大前提であると思う。なぜなら、無人島化すれば、島を実効支配する名分が低下し、隙を見ていつの間にか第3国人が定住してしまえば、今の日本の弱腰外交では、奪回は極めて困難と思われる。島を人体に例えれば、島を「生かす」にはという「血流」に相当する「人間」を島に定住させ、旅行者を通わせることである。私は主として防衛上の観点から、2つの無人島化阻止のための施策を考えた。
その1つが「長崎・五島キリスト教会巡礼の旅」、2つ目が「九州離島屯田兵制度」である。
(1) 長崎・五島キリスト教会巡礼の旅
九州補給処長に着任した年の秋、五島列島防衛のための現地研究を福江島で実施した。現地研究とは、机上で作成した防衛計画について、作戦を実施する現地をくまなく歩いてその妥当性や問題点などを研究・検証するフィールドワークのことである。
福江島を軍事作戦的な視点からくまなく視察していくうちに、同島には教会が多いことに気づいた。旅行パンフレットによると66個の教会があるという。福江島だけでも、福江教会、堂崎教会、水之浦教会、楠原教会、井持浦教会、貝津教会などがある。どの教会も信者の篤い信仰心を反映し、手入れが行き届き、教会の近くには十字架のデザインのあるキリスト教徒の墓碑が海を見下ろしていた。私はこれらの教会を見るうちに「長崎・五島キリスト教会巡礼の旅」のアイディアが湧いた。
 「長崎・五島キリスト教会巡礼の旅」構想の要点について述べる。この構想は、異国文化の入り口だった長崎市を起点に客船で海を渡り、福江島に、そこから徒歩と小船で五島列島を北上して最北端の宇久島に到達、引き続き船で平戸島に渡り、田平町、佐世保市を経てハウステンボスから島原半島を一周し、再び元の長崎市に戻る巡礼コースを設定し、巡礼者という旅人達の人の流れ(FLOW)を作る事により、五島列島の無人化を防ごうというアイディアである。

 このアイデァアには、欧米人にとっては「異教徒」と思われる日本人も、江戸時代に命懸けで隠れキリシタン達が守り通してきたキリスト教の歴史・文化があることを広く国内外に知らしめたい、という願いも込められている。(このエッセイを書いた後の2008年11月、ローマ法王庁が、17世紀の江戸時代に殉教した日本人キリスト教信者188人に、最高位である「聖人」に次ぐ福者の位が授けられる「列福式」が長崎市で行われた) もとより巡礼者は日本人のみを対象とするのでは広く欧米等全世界からの来訪者を期待するものである。この巡礼の旅を定着させるためには、国、長崎県、関係市町村、教会組織及び旅行業社などが忍耐と知恵を分かち合わなければならないだろう。
 この巡礼コースの中には、歴史を経た133に及ぶ素晴らしい教会が存在している。巡礼者はコマーシャリズムに踊らされ、美酒・美食を求めて旅行するのではなく、命懸けで信教を守り抜いた古の隠れキリシタン達の霊魂と今に生きるその末裔達との心の触れ合いを尊ぶ事が大切だと思う。
 そのモデルとして、四国88箇所の巡礼や中近東のキリスト教・イスラム教の巡礼制度を研究する必要があろう。
ハンチントンが唱える「文明の衝突」で、日本は完全に非キリスト教国(日本は神道の国)と思われているが、実は隠れキリシタンの歴史に見られるように、世界に誇れるキリスト教信仰と文化・歴史も存在しているのである。この巡礼制度が定着し、欧米からの巡礼者が増える事により、日本のキリスト教に関する誤解も少しは解消される事だろう。
(2)九州離島屯田兵制度
離島からの人口流出を防止する政策の1つとして、「九州離島屯田兵制度」を提案したい。この制度は、明治政府が行った北海道への屯田兵制度やイスラエルのキブツにも似た制度である。政府が人為的に九州の離島に住民を定住させ、これを防衛の一助にするというアイディアである。この法的裏づけは、これまで防衛という概念が全く排除されてきた「離島振興法」の中に記述すればよいと思う。
 「九州離島屯田兵制度」の要点を列挙する。
 有人の離島の戦略的重要度に応じて、現職陸上自衛隊の1個中隊(約150名から200名)、1個小隊(約20名から30名)、1個班(約10名)を配備することにより、当該島の防衛の基盤を作る他、人口減少に歯止めをかける一助とする。この際勤めて、当該離島出身の子女を採用・配置する。
☆ 上記の現職自衛隊部隊を補強し、支援する離島専用の予備自衛官(新たな予備自衛官制度を創設。「離島屯田兵」と仮称)を島民から採用し、有事には自らの故郷(離島)防衛に当たらせる。これらの採用対象には、農・漁民、役場の職員及び学校の教員などを含める。
☆ これらの「離島屯田兵」には一定の生活支援給与を支弁する。また、兼業も認める。
☆ これらの「離島屯田兵」の教育訓練には、主として当該離島に配備された現役自衛官が当る。
☆ 離島配備の現役自衛官はもとより、「離島屯田兵」についても、陸・海・空の所要兵力をバランスよく配備する。
☆ 離島防衛のため、これらの自衛隊兵力(現役自衛隊部隊と「離島屯田兵」)の配備とそのための施設整備に加え、各省庁は所管の業務を通じ、離島防衛と人口流出防止に努める。そのための根拠として「離島振興法」に新たな防衛に関する条項を追加する。


 九州の離島・島嶼防衛の意義
 1. 中国漁船・尖閣付近領海内接触事件――中国、「海洋権益」で主導権狙い強硬姿勢に  沖縄県・尖閣諸島付近で日本の海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突した事件で、中国は今月中旬に予定されていた東シナ海ガス田開発の条約締結交渉を延期したほか、戴秉国国務委員が丹羽宇一郎駐中国大使を未明に呼び出し、日本側に漁船・漁民の解放を迫り、さらなる対抗措置を打ち出すことを示唆するなど、強硬姿勢に転じている。
2.  米国から見た冷戦時代と今日の戦略環境の変化
 下表は、米国の視点から冷戦時代と今日の戦略環境を比較したものである。
                       

冷戦当時は、主敵はソ連で、今日の主敵(潜在的)は中国である。米国は大西洋・欧州と太平洋・アジアの2つの作戦正面(戦域)を持ち、巨大な海・空軍のみならず欧州におけるソ連陸軍との大規模な戦車・機甲戦に備えるために大規模な陸軍を維持しなければならなかった。ところが今日、中国との作戦正面は太平洋・アジアのみの1正面に減少し、戦いは欧州平原における戦車主体の陸戦ではなく台湾をめぐる海・空戦が主体になろう。冷戦時代、欧州における「頼り(パートナー)」は10カ国以上のNATO諸国であったが、今日、アジア正面ではNATOのような軍事同盟は存在せず、頼りになるのは日本を置いて他にはない。ソ連・東欧との経済取引は微々たるものであったが、今日中国との経済取引は膨大で、これが破綻すれば決定的なダメージを被る程になった。冷戦時代特に第二次世界大戦直後は、共産主義イデオロギーがまるで結核菌のように青年インテリ層の脳を侵食し真っ赤に染め上げ、各国にソ連シンパの共産主義・社会主義政党が勃興した。しかし、今日では、ソ連崩壊などにより、共産主義イデオロギーの神通力は無力化した。中国にとって共産主義イデオロギーは、一党独裁を守る方便としては使えるがかつての外国に対する影響力・間接侵略のツールとはなりえない。中国にとって、影響力を行使・拡大する術は「金銭」と「軍事力」のみとなった。
 3. 日本を取り巻く戦略環境――米国の凋落と中国の台頭上記の、世界規模の戦略環境の変化を、日本の視点から分析してみよう。
 米国は、今後「ジリ貧」になり、もはや世界の警察官の任を負えなくなる時代が来るのではいかという懸念がある。
この懸念は、歴史的な前例に由来するものだ。ベトナム戦争では時価換算で65兆円の金を使い、これにより米主導のブレトン・ウッズ体制が壊れ、金本位制と固定相場制を放棄した。さらには、ニクソン・ドクトリンが打ち出され、「自分の国は自分で守れ」―と、同盟国を突き放すような政策まで打ち出した。
 この前例を下敷きにして米国の将来を考えてみよう。アフガン・イラクではすでに95兆円の戦費を使い、年内には100兆円にも迫るものと見積もられている。アフガン・イラク戦費に加え、リーマンブラザーズ・ショックに端を発した金融危機により深刻な経済的ダメージを受けたが、今後米国が「ジリ貧」状態から抜け出せる確証は無い。
 8月末に公表された「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(以下「新安保懇」とする)」報告書においても「米国の軍事的、経済的優越は圧倒的なものと見なされなくなりつつあり、米国が超大国ではあるが、他国を無視できるような圧倒的力を持っているわけではないというのが米国も含めた一般的認識となっている」と述べている。
 一方、日本を凌ぐ世界第二位経済大国に躍進する勢いを見せる中国は、その経済力を基に大幅な軍事力の増強を推進している。
今後、日本周辺の米中のパワーバランスのイメージは図1のように推移し、米中の均衡点は東進することは確実である。この現象を分かりやすく説明するには気象学を用いるのが便法である。すなわち、「『中国という大陸性高気圧』の勢いが強まり、弱まりつつある『アメリカという海洋性高気圧』を押して、太平洋方向に張り出していく」とい説明である。

                                                
       図T 米中パワーバランスの東進のイメージ
                              
いずれにせよ、「昇る中国」と「沈む米国」の狭間にある日本は、今後、中国の勢力圏が東進する中で、如何に国防を全うするかという難問に向き合うことになるだろう。
4. 日本は米中覇権争いにおける「天王山」
 故小渕総理は、自らを「ビルの谷間のラーメン屋」あるいは「米ソ両大国の谷間に咲くユリの花」と喩えたという。同一選挙区に福田赳夫、中曽根康弘、社会党書記長に登りつめた山口鶴男などの大物議員がおり、小物の自分は「ラーメン屋」ないしは「ユリの花」というわけだ。
 これに倣えば、日本は米ソ覇権争いの中の「ラーメン屋」ともいえるだろう。両超大国の狭間で生き抜くのは大変だろう。日本国民は、今後余程の覚悟が必要だ。
 冷戦時代は、米ソの主戦場(覇権争いの戦域)は2箇所―大西洋・欧州と太平洋・アジア―存在し、「メイン」は大西洋・欧州で、太平洋・アジア戦域は「サブ」だった。今日では、米中の主戦場は太平洋・アジアだけである。また、冷戦期、欧州正面においてはソ連に対抗するために北大西洋条約機構(NATO)という軍事同盟が結成され、米国を支える同盟国はイギリスや西ドイツなど10ヶ国に上った。一方、今日北東アジアではNATOに相当する軍事機構は存在せず、アメリカが最大期待できる国は日本を置いてほかには無いといってもいいだろう。
 このように、日本は米中の覇権争いの場の中心に位置し、いわば「天下分け目の天王山」に相当する戦略上の要域といえる。ちなみに、天正10年(1582年)6月、織田信長を本能寺に討った明智光秀とその仇討ちを果たそうとする羽柴秀吉が京都山崎で戦い、同地における戦略上の要地「天王山」を制した秀吉の勝利となった。
 米国は今後とも日米同盟を強化し、日本を不沈空母として活用し、中国封じ込めの「最大拠点としての『日本』」の維持確保を目指すだろう。
 一方中国は、政治的には、日米同盟の弱体化・離間を図り、日本を自国の影響下に置く努力を傾注するものと考えられる。また、軍事的には、第1列島線(九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるライン)続いて第2列島線(伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るライン)進出のためには九州周辺の離島の一部を侵食しようとする試みを敢行する可能性がある。
5. 中国は海洋国家?
 「中国は海洋国家」といえば、笑止千万と思われる向きが多いだろう。海洋国家を「国家の存立を海洋に依拠している国」と定義すれば、中国は立派な海洋国家である。北の国境は砂漠と、産業希薄なシベリア、西はヒマラヤ山脈などどの地形障害により陸上ルートで通商を営むには限界がある。中国が13億人余の民を養い、経済発展するためには海洋に依拠するほか無い。
 冷戦時代、ソ連に対抗するために陸軍を重視したが、中ロ関係が改善した今日では海外の市場開拓・資源確保、シーレーンの安全確保、海洋資源の獲得などの目的から、米国に対抗することを念頭に、海・空軍力重視の軍拡に血道をあげているのは当然のことであろう。また、2009年6月には島嶼保護法を制定し、領海拡張の野望を鮮明にしている。
6. 米国にとっての離島・島嶼の価値
  今後、海洋進出を急ぐ中国の海洋戦略を推理する上で、マハンの海軍戦略を採用し、太平洋に進出したアメリカの歴史を検証することは大いに参考になろう。
マハンは「ハワイは米国のために神様が造ってくれたようなものだ」と述べ、海洋を横断し戦力を遠方に推進する上で島嶼を基地として活用する重要性を指摘した。米国はグアム、フィリピン、ウェーク、ハワイにも版図を広げ、今日では日本や韓国にも基地を保持してユーラシア・アジアへの覇権を確保するための手段としている。
ケネス・ボールディングは「力(戦力)の逓減(Loss of Strength Gradient)」について次のように述べ、遠方に戦力を投射する上で基地の重要性を指摘している。
l 世界のいかなる場所にでも投入できる一国の軍事力の量は、その国と軍事力を投入する場所の地理的な距離により左右され、目標地域への地理的な距離が遠くなればなる程、活用できる戦力は逓減する。
l 複数の前線基地(forward positions)の活用により、「力(戦力)の逓減」は改善できる。
 図2は、ボールディングの理論に基づき、米国が太平洋に基地を維持する効用について説明したものである。「A曲線」は米国がアジア・太平洋に基地を持たない場合の戦力の逓減するイメージである。「B曲線」は米国がハワイ、グアム、日本及び韓国に基地を維持することにより戦力の逓減を少なくできることを示すイメージである。この図を見れば、太平洋を超えて、戦力を投射しなければならない米国にとって、本土外(海外)基地を獲得・維持することは軍事戦略上必然のことであることが理解できよう。
マハンの時代は、海外に投射する戦力は海上戦力(海兵隊を含む)のみであったが、今日は航空・宇宙戦力が加えられており、必然的に基地は海軍基地のみならず、空軍基地が追加されるのは申すまでもない。

                                                        図2 基地による前方戦力の改善のイメージ
                           

7. 中国の海洋進出にとっても離島・島嶼の獲得が不可欠――わが国国防の当面の地域的焦点は九州の離島・島嶼  中国は、「近海積極防衛戦略」に基づき、2020年までに、第二列島線(伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るライン)までの行動能力を確保できることを目標に海空軍の建設を急いでいるといわれる。
 米国の例に見られるとおり、中国としても第一列島線や第二列島線に及ぶ海空軍の行動能力を獲得するためには、第一・第二列島線周辺の離島・島嶼を確保することは、必須の要件と考えられる。
 中国が離島・島嶼を確保するのは、十分に時間的余裕を持って獲得する方法と、大規模作戦開始に先立ち短期間に急速侵攻して奪取する方法が考えられる。
 もとより、中国は離島・島嶼を活用した基地の代替システムとして、米国同様に空母を中核とする機動部隊を運用する構想を持っているようだ。
中国の海洋進出の要領を考えれば、わが国防衛にとって、当面の地域的焦点は九州の 離島・島嶼であることは議論の余地は無いだろう。今回の中国漁船・尖閣付近領海内接触事件をめぐる中国の強硬姿勢は、かかる意図を雄弁に物語るものだと思う。
8. 民主党の国防政策――「新安保懇」報告書と2010年版防衛白書
厳密に言えば「新安保懇」報告書は、単なる提言であり、民主党の防衛政策とはいえない。しかし、これが新「防衛計画の大綱」に反映されることを考えれば、民主党の政策に準じるものと見なすことができよう。「新安保懇」報告書及び2010年版防衛白書においても「離島・島嶼の安全確保」について取り上げこれを重視する姿勢を明示している。特に「新安保懇」報告書においては「離島・島嶼の安全確保は日本固有の領土及び主権的権利の保全という主権問題であるが、こうした地域への武力攻撃を未然に防止するためには、平素からコストをかけて動的抑止を機能させることが重要である」と述べている。
 また、今次「新安保懇」報告書で注目されるポイントとして「安全保障戦略を支える基盤」を整備する上で「オールジャパン体制の構築」を掲げている。財政事情が厳しく、防衛予算の増額が困難視される中で、「より効果的な危機管理・安全保障行政を推進するには、省庁間、中央・地方間の垣根を越えた連携が必要である」と強調している。戦後、国防を忌避する風潮が高まり、国防の任は、憲法上その存在さえ論議された自衛隊に丸投げするような傾向があった。この点から見て、今回打ち出された「オールジャパン体制の構築」というポリシーは、大いに評価できる。



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