「新型大国関係」に揺れる米国
―集団的自衛権の行使容認を急げ―

理事・政治評論家  屋山太郎 
 
 「集団的自衛権の行使」に向けて安倍政権が苦悩しているようにみえる。国際情勢は集団的自衛権を行使できなければ近い将来、日本が危機に瀕することになるかも知れない方向に流れている。一方に国内しか見ない政治勢力があって、現状を変える必要がないという。宏池会の古賀誠最高名誉顧問や公明党の山口那津男代表、漆原良夫国対委員長らは連日のように首相を批判して解釈の見直しに反対している。
 集団的自衛権について「権利はあるが行使はできない」という日本独自の奇妙奇天烈な解釈は初めからあったわけではない。国連憲章では「自衛権」を個別的自衛権と集団的自衛権に分けていない。集団的自衛権が必要なのは個別的では守り切れないケースがいくらでもあるからだ。日本の憲法は「自衛権」を認めているのに、あえて「個別」と「集団」とを分けた。国内には日米安保条約が必要との強力な与党があり、野党には非武装・中立でいいという“抵抗野党”があった。国の安全にかかわる根本思想で、これだけ違うと政治にならない。
 困り果てた池田、佐藤両内閣では「日米安保条約」に差し障りなければ、あらかた社会党の言い分を聞いてやる政策が貫かれた。「有事の場合は核持ち込みもある」という日米密約は安倍首相の言うように“不正直”だが、こうしなければ、60年安保条約反対論が永遠に続いて、議会は機能しなかったに違いない。
 自民党は「集団的自衛権の権利」を認めることで名をとり、社・共両党は「行使できない」ことで実をとった。自社狎れ合い政治の典型だが、助かったのはこの間、集団的自衛権を行使するような事件が起こらなかったからだ。公明党も社・共と考え方が同じで、当初は人間性社会主義を称えていた。しかし、国際情勢は様変りしている。
 米太平洋艦隊の情報部門を総括するジェームズ・ファネル大佐は、中国軍の演習は尖閣諸島またはそれ以上を奪取するための「短期米中作戦」に備えていると警告している。
 日本人は米国務省がしばしば言明した「尖閣諸島は日本の施政権の範囲にある」というのを信じて、いざとなれば「米軍が助けにくる」と思っている。それを慮って、中国軍も手を出さないと思っているようだが、米国は将来にわたって尖閣に出てくるリスクを避けるはずだ。
 かつて米国は3つの戦争を行う圧倒的軍事力があった。欧州の冷戦が終って2つの戦争能力に落とした。1つ分を中東で使い果たし、今度は「リバランス」(再均衡)と言い出した。日本は中国がアジア侵略に乗り出せば日米で組んで中国を押えるという希望的妄想を抱いている。しかし現オバマ大統領には世界を仕切る能力はない。
 習近平主席が12年に訪米し「新型大国関係」を作ろうとぶち上げた。太平洋の問題は米中で仕切ろうというわけだ。その「新型大国関係」という言葉が、今や米国の側から出始めた。1つしか戦争ができないのに尖閣までは行けない。米中が仲良くした方が得だとオバマ氏は考えているはずだ。
(平成26年3月26日付静岡新聞『論壇』より転載)
 
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