アジアインフラ投資銀行(AIIB
―銀行設立のガバナンス不透明―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

  中国が突如、持ち出してきたAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想は、中国が米国と太平洋地域を分割しようという“新大陸関係”の延長線上の戦略だろう。太平洋を分けるという軍事上の狙いに加えて、国際金融の面でもアジア・太平洋地域における覇権を強める狙いだ。
 新大陸関係についてオバマ大統領は乗り掛けた。近隣諸国と揉める日本と組んでいるより、直接、中国と仲良くした方が良いのではないかと、計算した。しかし“価値を共有する”日本の方がよほど頼りになると思い直したようである。
 そこで中国が繰り出したのがAIIBという新手である。国際金融機関としてはIMF(国際通貨基金)とADB(アジア開発銀行)がある。共に米国と日本に主導権を握られて、中国の思うような投資ができない。そこで資本金の50%を出資し、総裁も中国、本部も北京、知事会は設けない。となるともはや国際金融機関ではない。“第2の中国銀行”を設立しようというものである。
 中国はシルクロードの復活を目指して、周辺国に“一帯一路”を呼びかけている。各国が巨大な公共投資を行なえば、景気浮揚になると煽っている。
 中国はAIIBをテコに人民元を国際通貨の座に押し上げることに懸命になっている。
 中国の李克強首相はIMFの特別引き出し権(SDR)の構成要素に人民元を採用するようラガルド専務理事に申し入れた。人民元の資本取引を活発化させ、人民元が国際通貨に採用されることで、金融の維持や元の国際化で、国際社会で中国が大きな役割を担うことになると力説したという。
 しかし中国のAIIB設立もSDRの構成要素に入れろというのも、別の意図が透けて見える。中国は08年のリーマンショックの際、莫大な公共投資を行って中国や世界の窮地を救った。その後遺症か中国を国民総生産7%に追い込ませた。実は4〜5%に落ちているという見方もある。本来の中国流なら莫大な国費を注ぎ込んで、同様の対策を試みるはずだが、実は中国にはカネがない。
 中国の債務証券発行額は増加する一方で、途上国全体の5割近いシェアを占め(2014年)、国際金融機関の発行額を上回っている。AIIBというのは純中国産の銀行で「オレが50%を持つ」と宣言しても、誰も現金かそれに類するものがそこにあると確証できない。下手をすると国内投資の不足分をAIIBの名でかき集めて、自国の公共投資に当てる算段とも限らない。
 欧州諸国が参加したのはIMF、AIDでは物品の輸出入には便利でも、大規模なインフラ投資に不利だったということがあるだろう。安倍首相は「ガバナンスを見てみる」と述べたが、至当な判断だろう。
 忘れてならないのはAIIBが正真正銘の中国共産党の銀行だということだ。三権分立もなく、不公正を訴える場もない銀行は国際社会の信を得られない。その本質を直視しつつ矛盾点を指摘し続ければ、不正な銀行は破綻する。


(平成27年4月29日付静岡新聞『論壇』より転載)

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