戦後70年「安倍談話」を評す
―もう「中韓」の要求ばかりを吞んではならない―

 
理事・政治評論家  屋山太郎 

 安倍談話は概ね好評である。安倍首相がことさら満足したのはワシントンの評価だろう。米国から見て最も困るのは日本が隣国の中国と韓国と不仲であることだ。日中が不仲なら日米安保条約の出番は必至だ。オバマ大統領は直接、中国との親密な関係を作った方がよいと考えた。そこに中国が足元を見るように持ち出してきたのが「新大国間関係」だ。中国が内々出している数字によれば2050年にはGDPでも軍事力でも米国と互角になる。米中で衝突する前に新しい「大国間関係」を作っておこうという考え方である。しかし両国首脳は何回か話し合ううちに、オバマ氏は中国不信に陥ったようだ。
 南シナ海の岩礁埋立てを見れば、中国の本性が見えただろう。一方の安倍首相はアジア諸国をまとめて「法の支配」を中国に求めた。米国は新しい国のせいか、昔から中国を見る目が日本とは違う。ニクソン・ショックがその一例だ。米ソ冷戦下で中国と接近することは意味があるが、同盟国の日本にも事前に通報はなかった。米国務省内にも日本嫌いがいるが、最近の中国の振る舞いには眉をひそめている。
 歴代自民党政府は中国、韓国との付き合いはご機嫌をとっていればいいとの発想だった。二階俊博総務会長は地元に江沢民中国国家主席の像を建てようとしたという。こういう雰囲気の中で朴槿恵大統領は日本に「会談したいならまず慰安婦に謝罪せよ」と迫った。実はこの迫り方は韓国歴代のもので、公式には1965年の日韓請求権協定で全ての補償が終わっているはずだ。しかし大統領が代わる度にこの筋の通らない要求に日本は応えてきた。安倍氏は「条件付きなら会わない」と対応したところ、米韓関係を無視するが如く中国に接近、対日共闘作戦を始めた。
 韓国が慰安婦、中国が謝罪を叫んで、「安倍談話」を求めたのである。安倍氏を取り巻く側近はタカ派も多く、今回ほど書きづらかった談話はないだろう。
 安倍談話は100年前の植民地時代の歴史から説き起こし、戦争の悲惨さを語って「いかなる紛争も法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである」と強調している。
 新安保法案の強行採決によって、「戦争法案」というキャッチフレーズが世に響いた。内閣支持率は5〜10%下がったが、談話発表後の共同通信調査では支持率が5,5%上がった。国内の懸念も和らいだのではないか。
 この談話によって、米国や親中派は日中韓が仲良くなれると思っているようだが、中・韓には抜き難い中華思想がある。その上、中国は共産党が党独裁をする理由として、日本帝国主義の脅威を根拠としている。国内事情で混乱している中国でも南シナ海は強奪で終わらせるつもりだろう。朴大統領は反日姿勢だけで政権を維持してきただけだ。だからこそ理不尽な要求は受けてはならない。



(平成27年8月19日付静岡新聞『論壇』より転載)

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