3月11日の大地震ならびに大津波でお亡くなりになった方々のご冥福を
お祈りするとともに、被災者の方々に心からの御見舞いを申し上げ、
一日も早い復興をお祈り申し上げます。



モンゴル国内で中国による原油採掘が始まった


              
                                     政策提言委員・元陸自化学学校長
                       (株)NTTデータアイ参与

       
          鬼塚隆志

はじめに

 私は、2011年8月22日から31日にかけて、ノモンハン事件現地慰霊の旅に参加した。慰霊の対象は敵味方の戦没将兵であり、慰霊の旅の団長は本事件に将校として参戦し生還した永井正氏(96)で、支援団体はモンゴル国防省及び大本山成田山新勝寺等である。私がこの慰霊の旅に参加したのは、2008年、2009年、2011年の3回であり、いずれの慰霊の旅もソ連赤軍とモンゴル人民共和国軍が、第2次世界大戦前の1939年に日本の関東軍と満州国軍に大攻勢をかけた8月20日以降であった。
  御遺族を含む我々は、戦場となったモンゴル国最東部の中国国境に近いハルハ河地域に約3日半滞在(宿泊地 スンブルの国境警備隊宿舎)し、本戦場で戦い生還した諸先輩達が約十数年をかけて茫漠たる大草原の戦場を踏査して建立した約20箇所の各部隊戦没者慰霊碑の前で、我が国の将来を信じ奮戦し斃れられた英霊に対し、新勝寺の僧侶の読経にあわせて、深甚なる感謝の念と哀悼の誠を捧げた。
 本文は、ノモンハン事件に関するものではなく、慰霊の旅の間に見聞した現在のモンゴル国の現状、特にモンゴル国内における中国の原油採掘の状況、及び、団長に随行して城所在モンゴル日本国大使を表敬訪問した際に受けた印象を踏まえた、モンゴル国の東日本大震災への対応等について記述するものである。
  注:ノモンハン事件(モンゴル国はハルハ河(ハルヒン・ゴル)の戦争と呼称)は、モンゴル人民共和国(現在はモンゴル国)軍及びその後ろ盾であるソ連赤軍と、満州国軍及びその後ろ盾であった日本の関東軍が、双方の主張する国境線の違いに起因して、現在のモンゴル国最東部中国国境近くの地域、特にハルハ河周辺の大草原地域で、1939年5月以降に繰り広げた大衝突のことを言う。双方とも激戦を繰り広げ多くの死傷者を出したが、結果はモンゴル人民共和国軍とソ連赤軍が、満州国軍と関東軍を自らが主張する国境線外に辛うじて撃退し、勝利した。本事件は、政治・外交・軍事面において多大の教訓を残しており、現在もなお研究され続けている。

モンゴル国の現状
 モンゴルは地下資源(銅、石炭、ウラン、レアアース、原油など)の埋蔵量が豊富な国である。その主因としては、モンゴル人は日本の約4倍の国土の割には人口が少なく(現在約270万人)、また本来遊牧民で最近まで牧草を重視し、隣国(中国)の農耕民族とは異なって、耕作すれば牧草地が減少することはもとより土地が痩せ牧草が育たなくなるとして土地の掘削・耕作を好まず、ほとんどの土地が未掘削であったからであろうと思われる。ノモンハン事件においては、ソ連赤軍が陣地を構築したにもかかわらず、モンゴル人民共和国の将兵は陣地構築をほとんど行わず、騎兵で戦ったが故に多くの死傷者を出したと言われている。
 現在のモンゴル国の首都ウランバートル地域は、遊牧民定住化の施策により、全人口270万人のうち約半数近くが首都地域に定住している(土地の私有化も認められている)。それに伴ってホテル、集合住宅及び工場等の建設ラッシュはもとより、我が国の首都圏以上の車両による交通渋滞が起きている。全般として、上下水道及び道路等のインフラ整備は遅れているものの、一昨年に比しビジネス関係外国人が多く見られ、かつ新国際空港の建設も予定されていると聞き、モンゴルの急速な発展に驚かざるを得なかった。

中国の原油採掘の実態
 モンゴル国内における外国の原油の採掘(試掘及び採油)の状況は、現在、中国のみが原油を採油し輸入するに至っている。現在推定されているモンゴルの原油埋蔵量は約1.5億トンであり、石油精製施設はウランバートル南方約100kmに建設されていると聞いている。元政府高官等によれば、中国は、両国間の取決めより約1.5倍の試掘を行い、また中国が採油する原油の半分はモンゴルの取り分となると聞いている。これまでに中国以外の国も試掘を行ったが、硫黄分が多いなどの理由から採算がとれないとして断念している。
 本件については、モンゴル国の東部から南部にかけて接する中国の内モンゴル自治区において、2009年2月に新たに埋蔵量約1億トンの油田が発見されたことと関係が深い。中国の石油エネルギー獲得の動きは、それまでに発見された同自治区の石油埋蔵量が7億トンで、かつ同自治区を21世紀中国の鉱物資源戦略基地と称していること、及び、中国の隣国カザフスタンとロシアからの石油(原油)・天然ガスの取得状況など、中国が世界中で繰り広げているエネルギー戦略の一環としてみる必要がある。

 次の写真は、中国の原油の試掘及び採油状況の写真である。撮影場所は、モンゴル最東部ドルノド県の都市チョイバルサンからハルハ河地域まで地平線の続く大草原を貫く未舗装道を車両で東進し、全行程約380kmを約2/3進んだ付近(同地から中国国境までは約200kmと思われる)である。

2009年に撮影した原油試掘の状況(確認された道路周辺の試掘場所約10箇所)
 試掘した原油はタンクローリで輸送されている。

 2011年に撮影した油井設備(確認された道路周辺の油井設備は約8箇所)
 パイプラインはまだ敷設されていない。設備は、油井確認時全て未稼働であり、タンクローリ到着に合わせて稼動させるものと思われる。


モンゴル国の東日本大震災への対応
 モンゴル政府は、日本政府の震災対処決定よりも早く、震災が生起した翌日には休日を返上して閣議を開き、日本に対し100万米ドルの義捐金と援助物資を提供する(例えば毛布を約1万枚)ことを決定した。このことは公表されているが、モンゴル国の援助は世界で一番早い決定であったことに留意すべきであろう。援助内容については、モンゴル国の全人口が約270万人であることを考慮する必要がある。日本に対する援助に関し、モンゴル国の公務員は全員が俸給月額の1日分を義捐金として拠出し(知人の公務員も義捐金を供出)、また、1ヶ月分を義捐金として拠出した企業もあるなど、政府および国民挙げて我が国を支援している。また日本人がタクシーに乗った際、運転手から日本人からは代金は受け取れないとして無料だったという話も聞いている。

おわりに
 日本は、ソ連邦崩壊後社会主義のモンゴル人民共和国から民主的なモンゴル国になって以来、非常に良好な両国関係を構築している。そのこともあってか、国内随所にある戦争博物館は、モンゴル人民共和国が外敵(満州国及び日本)と戦ったノモンハン事件を大きく取扱っているものの、現在、同事件が日本とモンゴル国間の障害となっているようなことはない。
 またモンゴル国内では、日本のテレビ番組を観ることができる。日本語を理解するモンゴル人はNHKの相撲ばかりではなく、様々な日本の番組を観ており、日本の政局、また、東日本大震災及び復興の様子など、日本のことは良く承知している。このことからも、日本の政治はしっかりしなくてはならないと強く感じた。因みにモンゴル語と日本語の文法は似ており、モンゴル人にとって日本語習得は案外容易なことのようである。
 周知のとおり、モンゴルは広大な国土と豊富な地下資源を有することから、最近では隣国のロシアと中国が、安全保障の面から、特にウランの獲得を目指して積極的な働きかけを行っている。
 国際関係の変化は早い。我が国は今、国家の根幹である外交・安全保障が手薄になっている不幸な状況が続いているが、これまで培ってきたモンゴル国との友好関係を、今こそ官民挙げてこれまで以上に維持拡大していかねばならないと強く感じる次第である。

(写真の無断引用はご遠慮ください。)

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