1.はじめに
下地島空港は、1973年7月、我が国で初めてのパイロット訓練専用飛行場として建設に着手した。これは、我が国におけるパイロットの養成訓練体制が脆弱であることに鑑み、折からの航空機事故の多発も引鉄となって着工したものである。当時はパイロット養成や実機訓練は米国のナパやモーゼスレーク飛行場を借りて実施していたものであるが、我が国における専用訓練飛行場の建設は国家的事業として期待されていた。全国の離島が建設候補地として対象となり、鹿児島県硫黄島、沖縄県伊良部島等が最終候補地として残り、最後に米軍統治下にあった沖縄伊良部町下地島が選定された。米軍統治下にあることが、当時は運輸省予算ではなく総理府予算での建設というお家事情も味方したのであろう。
1979年8月、沖縄の根強い軍事利用への日本政府不信から設置管理者を沖縄県知事とする第三種公共空港として供用開始した。すなわち、開港当初は那覇空港へ定期便が就航していたのである。しかしながら、その後の経営環境は大きく変化した。すぐ近くに宮古空港が存在することから、次第に航空利用客は遠のき、1994年7月には定期便が運航休止した。航空機操縦シミュレーターの発達は実機による訓練を不要にし、航空会社は航空機の常駐等の多大な維持経費を浪費する羽目になった。航空局は、実態は訓練専用飛行場であっても第三種空港であるがゆえに管制官等の国の職員を常駐させなければならないことや、沖縄県は、設置管理者であるがゆえに施設の維持経費は県負担であることが大きな課題となっている。JALの経営破綻が発端となり、2011年にJALが撤退、2012年にはANAの撤退が決定され、当空港の存廃が注目されている。
2.民間利用
沖縄県は訓練飛行場機能撤退後の当空港の利用計画を検討中であるが、対象分野は空港施設としての利用の他はリゾート開発や農業的開発等民間資本による開発に限定している。
地方空港の利活用はこれまでにも多数の調査事例があるが母都市との関係が脆弱な計画は実現した例はない。金太郎飴の如く航空機産業の誘致やカジノ特区創設がメニューとなっていた。下地島空港は沖縄「離島」という地の利があったからこそ訓練飛行場として開発したのだから、その用途が不要になれば廃港の選択しかないのが原則である。
3.軍利用
他の活用策として唯一成立するのが軍事利用である。下地島空港の軍事利用については過去にも検討された経緯がある。1995年の沖縄米兵による少女暴行事件を契機に米軍基地反対運動や普天間基地の返還運動が激化し、日米首脳による協議の結果、1996年4月には「普天間基地の移設条件付変換」が合意され、普天間基地の移設候補地として俎上に上ったことがあった。このときには基地機能をサポートする背景が足りないこと、軍民共用を志向する県の意向に沿わないこと、中国に対する配慮等が減点材料となり候補地から外れた。その他、2005年3月、伊良部町臨時議会で自衛隊の誘致決議が成されたが(9対8)、住民説明会での反発を受け決議を直ちに撤回(16対1)した経緯もある。
少女暴行事件から17年も経って、普天間基地の移設、跡地返還は迷走を続けるばかりで全く進展していない。政権交代は辺野古沖移設計画を暗礁に乗り上げさせた。この閉塞状況を打破するためにも、また、沖縄県の経済発展に大きく貢献する那覇空港の機能拡張を効率的・効果的に行うためにも、再度、下地島空港の軍事利用を提案する。
4.自衛隊の下地島飛行場への展開
那覇空港は沖縄返還前から軍事利用が中心で民間航空利用はわずかであった。民間施設は滑走路端部に展開し、返還後は運輸省が管理する民間空港となったものの中央部を含め施設配置は自衛隊中心に構成され、今でも着陸した時は目にするのは軍事施設ばかりで民間空港の印象は極めて薄い。スクランブル発進や訓練飛行で民間機の運航に大きな影響を与えている現況の改善のため、新たに滑走路1本を増設する計画があり期待値が高いものの多大な事業費を要する。そこで考えられるのが、那覇空港配置自衛隊の下地島飛行場への移転である。下地島へは空自または海自どちら一方移が移転するのか、あるいは両方とも移転するのかその編成については十分検討しなければならないが(航空自衛隊は日米合同作戦のためには嘉手納基地への移転統合が望ましいが基地周辺住民の合意形成が困難であるとされている)、那覇空港を本来の民間専用空港もしくは民間中心の空港にする大義名分がある。滑走路増設費用が自衛隊施設のリニューアルや次期対潜哨戒機の格納施設に廻せることにもなる。
2014年には宮古本島と伊良部島を結ぶ宮古大橋の架橋が完成する予定であり、自衛隊家族等の後背施設等の展開も可能である。架橋前とは条件が大きく異なる。
5.おわりに
私は、1996年普天間基地の移設・跡地返還が決まった時、暫定的に下地島で米海兵隊の訓練を行うことを提案したことがある。沖縄は選挙のたびに保守・革新の政権交代が行われ、恒久的な移設候補地はいつまでも決まらないことを予測していた。日本政府側の提案は受け付けないという沖縄の事情が許さなかったが、米軍再編、中国の軍事的台頭等新たな国際情勢の変化は本提案の根拠にもなっている。
自衛隊が移転するなら米軍だって下地島でいいではないかという流れが出てくる期待感も併せて持っている。そうなれば一石二鳥に三鳥もなるではないか。
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