
ペルシャ湾海域での国際掃海訓練へ掃海部隊を派遣した日本。
原油輸送の要路の安全、周辺海域を航行する日本船舶の安全を守ることは国益に資する。
沖縄基地問題やTPP参加で進展を見せられない中、日米同盟強化に向けたメッセージにもなる。
ただし、これまでも防衛法制上の過剰な制約が、自衛隊の派遣や任務遂行の支障となってきた。
今回の訓練参加は、日本が国際的な責務を果たせるよう、現行防衛法制を見直す好機だ。
防衛省・海上自衛隊(海自)は9月16日から27日にかけて、米海軍が主催するペルシャ湾での大規模な国際掃海訓練に掃海部隊を派遣している。ペルシャ湾や周辺の海域は、原油輸送の大動脈である。訓練は、参加国海軍の対機雷戦能力の向上や国際親善を目的としているが、政治的には、核兵器開発疑惑への圧力に反発し、湾口のホルムズ海峡を機雷閉鎖(海峡内に機雷を敷設して航行できなくすること)する構えを見せるイランに対し、船舶の航行安全を何としても確保するという国際社会の一致した意思を行動によって示す意味がある。
世界第一級の機雷掃海能力を有する海自の訓練参加は、自らの対機雷作戦能力の向上は当然として、湾岸諸国など発展途上にある友好国海軍の能力向上、信頼醸成にも主導的役割を担うとして期待されている。更に沖縄基地問題やTPP参加問題などで進展を見せられない日本からの、日米同盟の深化に向けた強いメッセージともなる。
しかし訓練期間中やその前後に、万が一イランによるホルムズ海峡の機雷閉鎖や武力による威嚇、攻撃などが行われた場合、派遣部隊は如何に対処すべきか。更に将来を含め、機雷閉鎖などがあった場合、国際社会から日本に対し、様々な対処活動を要請される可能性もある。その際、憲法解釈に由来する現行防衛法制の過剰な制約が、政治決定の遅疑逡巡や作戦活動への干渉となり、部隊の任務遂行に支障を及ぼすことも懸念される。中韓露との領土を巡る係争でその去就が国際的にも注目される中、日本は、ホルムズ海峡閉鎖という国際的な難問にも的確に備える態勢を整え、国際的な責務を果たさねばならない。
世界第一級の掃海能力を持つ海自へ
今回の訓練には、欧州、湾岸、東南アジアなど、20数カ国が参加する。北東アジアからの参加は日本のみで、海自は掃海母艦「うらが」と掃海艦「はちじょう」の2隻を派出した。
1991年の湾岸戦争後にペルシャ湾に派遣された海自掃海部隊は、最後まで機雷危険海域に留まって任務を完遂し、計34個の機雷処分という多大な成果を上げた。太平洋戦争後まもなく始まり今に続く日本周辺海域の機雷等処分や硫黄島での実機雷処分訓練などを通じ、実戦的な能力向上を図る一方、各種機雷の製造技術も有するなど、対機雷戦技術を総合的に発展させる態勢を整えており、世界的な評価も高い。
対機雷戦は、世界最強の米海軍が海自に最も期待する作戦の1つである。全世界に展開する米海軍も、僅か14隻の掃海艦を現有するに過ぎない。日本では長期的な防衛費削減により、海上防衛力は全体的に削減され続け、掃海部隊もご多分に洩れないが、それでも掃海艦艇29隻(湾岸戦争時の約半分)を保有しており、米海軍が量の面で期待するのは理解できる。一方、質の面では、昨年ペルシャ湾で、米英共催の掃海訓練に参加した海自掃海部隊は、日米英3カ国の中で、圧倒的な好成績を挙げ、これを目の当たりにした現地の米海軍司令官は、ペルシャ湾口のホルムズ海峡が機雷閉鎖された場合、海自の支援を強く期待すると表明したという。本音であろう。
自衛隊の国際協力活動は、民主党政権になって、テロ特措法によるインド洋での給油支援活動は取りやめとなり、イラク特措法に基づくイラク復興支援活動は終結した。現在は、南スーダンなど陸上でのPKO活動が行われているほか、海上では、2009年の海賊対処法に基づいた海自の護衛艦や哨戒機(Pー3C)によるソマリア沖派遣が続いている。ホルムズ海峡を巡るイランの動きは予断を許さないが、直近が極めて危機的な状況にはない中、国際的に貢献できる分野では貢献を果たすべしという政府の判断が働いたと言えよう。
この際、訓練期間中やその前後に、イランがホルムズ海峡閉鎖を行い、または参加部隊を威嚇、攻撃するなど、万が一のケースも想定し、対応を考えておくことは至極当然である。海自では、練習艦隊や海賊対処といった定常的な海外派遣業務に際しても、行動海域付近での万が一の事態急変に備えて、現行の法制下、想定される事態に対応した部隊の行動基準を示しており、今回の派遣でも、同様に措置されている。

他方そういった状況が今回または近い将来に現実となった場合、ホルムズ海峡の地政的重要性に鑑み、日本国としての対応が問われることとなる。その場合、掃海部隊による機雷等の除去以外にも、ジブチに活動拠点を置くPー3Cによる広域洋上哨戒、護衛艦部隊による海峡周辺哨戒や船舶護衛、補給艦や輸送艦・輸送機による補給活動といった貢献策が想定される。貢献策の採否は政府の判断にかかっている。
「精強」と「即応」を伝統的なモットーとする海自は、常に先を見越して千変万化する情勢に備えている。政治決定さえ下れば、直ちに任務に適合する派遣部隊が編成され、現地に急行することが可能だ。
防衛法制のあり方を再考する好機
ここで問題となるのは、防衛法制の壁だ。
わが国には自衛隊の国際協力活動の遂行に当たり、憲法解釈に由来するとされる防衛法制上の幾つかの制約があり、従来、自衛隊の国際協力活動に際し、自衛隊の派遣や任務遂行の支障となってきた。今回の掃海訓練参加における不測の事態を想定すると、自衛隊法の規定に対して、政府が過去に行った見解が1つの制約になっている。
今回の掃海訓練の法的根拠は、自衛隊法に定められた本来任務としての「機雷等の除去」である。91年の湾岸掃海活動のときと同じだ。
ただし湾岸掃海活動において、当時の政府は、その合法性に関して、停戦合意がなされた後の「遺棄機雷の処分」を理由とした。この見解は、以後自衛隊の海外派遣の際の「非戦闘地域(現在または活動期間中、戦闘行為が行われていない地域)での活動」の要件として固定化されてしまい、その後の多くの果敢な国際協力活動参加への試みがつぶされた。その都度、日本は安全保障面での「異形な国家」と国際社会に受け止められることとなった。
今回の掃海訓練やその前後において、万が一、狭隘なホルムズ海峡でイランによる機雷閉鎖が行われた場合、日本が掃海作業で国際協力しようとすると、国内ではまた「非戦闘地域」かどうかが問題となる。
しかし、イラン側及びオマーン・UAE側のどこが機雷危険海域となるかで、様相は変わり、イラン側ではともかく、オマーン・UAE側では、戦況によって、「非戦闘地域」とみなし得る場合が生じよう。
そこでオマーン・UAE側の領海や国際海峡の掃海、公海上の浮流機雷処分などによる可及的速やかな航路啓開が強く要請された場合、海自部隊が、イランへの直接の敵対行為としてではなく、国際社会や沿岸国の要請による「航路上の危険物の除去」のための掃海作業に従事することは、それ自体「武力の行使」には当たらず、許容されるものと判断されるべきだ。
 「機雷等の除去」の任務遂行に当たっては、近傍海域で掃海作業に従事する他国海軍部隊があった場合、掃海海面の割当てや行動の調整を行う必要性が出てくる。また現場で蓄積された掃海戦術情報の交換は有用である。そういう面での協力はあるが、掃海作業の性質上、活動の形態は、基本的に海自部隊単独となる。
即ち、他国との協力が、「情報の交換」や「業務の調整」に留まり、「他国への武力攻撃を実力で阻止する行為」とはならない以上、「集団的自衛権の行使」には当たらず、また「非戦闘地域」での非武力行使である以上、米軍などによる他の地域(「戦闘地域」)での武力の行使とは一線を画し、「武力行使の一体化」とはならないと考えるべきである。
何れにせよこの場合の具体的行動の選択は、予め定められた部隊の行動基準の範囲で、戦況をリアルタイムに把握できる現場の指揮官の裁量に委ねれば良い。海自はそういった経験を幾つか積み重ねてきている。
以上のように考えれば、今回の訓練中に、イランの機雷閉鎖という不測の事態が起きても、従来の政府見解の枠内で、掃海作業に移行することは可能である。しかし、本質的には、「非戦闘地域でしか国際協力してはならない」、「集団的自衛権を行使してはならない」という硬直した憲法・法解釈自体をそろそろ改めるべき時期に来ているのではないか。
憲法解釈変更の端緒に
8月中旬に発表された第3次アーミテージ・ナイレポートでは、イランがホルムズ海峡閉鎖の動きを見せた場合には「日本独自で(unilaterally)」機雷除去のための掃海部隊を派遣するよう提言している。日本が一流国として生き残る意思を持っていればとの前提付きだ。同レポートの執筆者は、米国の指導者層に、相当な影響力を持っていることから、同様の要請を米国政府として日本に打診してくる可能性は十分にあることに留意すべきだ。
ここまで「機雷等の除去」についてケース・スタディを行ったが、前述した他のケースについては、Pー3Cによる広域洋上哨戒など直ちに可能なものがある一方、護衛艦部隊による哨戒や船舶護衛など簡単ではないものも含まれている。
ホルムズ海峡閉鎖に直面した場合、現状、自衛隊として何をどこまでできるかを想定し、要する場合の一般法や特措法の制定など、必要な手続きを事前に整理しておかなければ、混迷した政局の中で、政権は遅疑逡巡し、迷走する可能性が高い。
そこで提案であるが、今回の国際掃海訓練参加を切っ掛けに、政府関係者を招いた上で、海自が主体となった図上演習(シミュレーターを使用した各種作戦の検証作業)を実施し、政府全体としての対応についてのケース・スタディを行い、関係省庁が連携して協議する体制を作って欲しい。
起こり得る局面を具体的に想定し、それに対する準備を検討すれば、国際社会の期待がある中、自衛隊がいかにその行動に多くの制約を課せられているか、政府関係者は再認識することだろう。
防衛法制上の制約についての固定観念にとらわれず、必要に応じ憲法解釈等の変更について議論することをためらわないなど、国益に基づいた力強い政策判断を行う端緒となることが期待できる。
〔かねだ・ひであき〕1968年防衛大学校卒業。海上自衛隊では海将を務め99年に退官。同年から現職。ハーバード大学上席研究員。
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