北朝鮮のミサイル発射に思う 
―イスラエルに学ぶ対米外交―

政策提言委員・元陸自西方幕僚長
  福山 隆

● 北朝鮮の「人工衛星」を打ち上げは核開発の一環
 今月12日に、北朝鮮が金日成の生誕100周年を記念して「人工衛星」を打ち上げると発表し、日本全国が鳴動している。さらに、東海、東南海、南海の連動地震は30メートル級の大津波を起こすという国の推計が公表され、日本人は「天災」と「人災」の脅威を突きつけられた格好だ。
  北朝鮮のミサイル開発は核開発の一環だ。今次、北朝鮮の云う「人工衛星」の打ち上げは、核弾頭を搭載する長距離弾道ミサイルの実験と理解すべきだ。
 
● イラクと北朝鮮の核・ミサイル開発に対する米国の対応には温度差
 今世界では、核拡散防止が岐路に差しかかっている。イランと北朝鮮の核開発が焦点だ。イランの核開発により最も深刻な脅威を受けるのはイスラエルである。また、北朝鮮の核の脅威は日本に志向されていることを理解すべきだ。韓国では「よもや同民族に対して核兵器を使うことはあり得ない」との見方が支配的だ。
 そのいずれの核開発に対しても、自らの国益・戦略上ストップをかけたいのがアメリカだ。ところがそのアメリカのイラクに対する対応と北朝鮮に対する対応には温度差がある。
 イランの核開発の現状は、未だ「疑惑」の段階だ。イランが自国の核関連施設で高濃縮ウランの製造を企画していた、またはしている、という疑惑がかけられている段階なのだ。
 一方の北朝鮮は、既にプルトニウムを原料とする核爆弾の実験を2度も行い、核保有が既成事実化していると考えられている。結果としてみれば、米国は北朝鮮の核保有を阻止できなかった。現在は更に進んで、核爆弾小型化のために、ウラン濃縮を実施している段階である。
 北朝鮮の核開発に対しては決然たる決意と軍事行動で対処できなかったのとは対照的に、イランの核開発に対しては北朝鮮以上に鮮明に阻止する方針を打ち出している。
 米国の対イラク対応と北朝鮮対応の温度差はどこから来るのだろうか。北朝鮮の庇護に任ずる中国の存在や、北朝鮮の長射程火砲・ミサイルによりソウル市民が「人質」に取られていることなどの理由から、米国は軍事力により北朝鮮の核開発を阻止できなかった、という見方も出来よう。
 本稿では、北朝鮮の核ミサイル開発を阻止できない理由の一半が日本にあることを、イスラエルと日本を対比しつつ説明したい。

● 米国・イスラエル首脳会談――イスラエルの強気と不安
 3月5日、ホワイトハウスで米国のオバマ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相との首脳会談が行われた。イスラエルはイランの核開発を自国の存亡に関わる脅威と見ている。イスラエルは「イランの核開発は成功直前で、短期間に兵器使用可能な濃縮ウランの生産が可能な段階にある」と分析し、ネタニヤフ首相は、イラン攻撃に関するオバマ大統領からの何らかの積極的な支援の言質を引き出そうとした。これに対し米国は「イランの核兵器開発はそれ程切迫していない」と分析し、オバマ大統領は、当面外交的な解決を優先すべきだと応じ、両者の主張は平行線をたどった。
 メディアの報ずるところを見れば、ネタニヤフ首相はオバマ大統領に対してかなり強気なスタンスで発言したようだ。イランに対する先制攻撃について、ネタニヤフ首相はイスラエルの正当性を明確に主張し、米国の理解・協力を求めた。更には、「ユダヤロビーを使って大統領選挙で落選させてやる」と脅迫したとも伝えられる。
 イスラエル側にはオバマ大統領に対する不信が根深いのだろう。オバマ大統領は就任後「米国はもはやイスラエルに白紙委任状は与えない」とするイスラエル政策を表明した。また、最近発表されたアジア重視戦略はイスラエルにとっては「中東“軽視”戦略」と映るかもしれない。イスラエルはアメリカから見捨てられる一抹の不安があるのかもしれない。

● 日本の迫力の無い対米外交 ―イスラエルとのコントラスト―
 米イ首脳会談に比べ、昨年9月の日米首脳会談における野田首相の迫力の無さは米国・イスラエル首脳会談とは際立って対照的である。野田首相は、表面的な友好ムードを装い、普天間問題や北朝鮮の核開発問題で実質的に突っ込んだ自己主張をすることは無かった。これは、過去の自民党の首相も同じだった。
 核問題について言えば、米国とイスラエル間で論じているイランの核開発はウラン濃縮段階と見られるが、北朝鮮はプルトニウム型原爆と見られる実験2度も強行し、既に核爆弾を保有している段階であり、更にウラン濃縮活動を実施している。日本はイスラエルに比べ、著しく切迫度と深刻さが足りない。

● 日本とイスラエルの根本的な違いは「脅威認識」
 ユダヤの民は、紀元66年の反乱(第1次ユダヤ戦争)や2世紀のバル・コクバの乱(第2次ユダヤ戦争)の失敗によりイスラエルの地を追放され、ヨーロッパや中東、北アフリカなど地中海周辺各地に離散(「ディアスポラ」と呼ばれる)した。イスラエル建国までの約1900年間、ユダヤ人は「国無き民」として辛酸を舐めさせられた。
 特に、欧州・ロシアに離散したユダヤ人は、「ポグロム」と呼ばれる集団的迫害行為(殺戮・略奪・破壊・差別)受けた。また、ヒトラーによるユダヤ人に対するホロコーストは記憶に新しい。
 これに比べ四面環海の日本人は、大東亜戦争や元寇のほかには、外敵から何度も蹂躙されるような深刻な悲劇を味わっていない。
 このような両国民の歴史的な体験の違いから、脅威に対する敏感さには大きな違いがあることは否めない。

● イスラエルはなぜ米国に強いのか
 シカゴ大学のウォルト教授とハーバード大学のミアシャイマー教授が共同で「イスラエルロビーと米国の外交政策」という本を出した。両教授は、「ユダヤ系住民は米国全体の3%未満の人口しかいないが、彼らは民主党と共和党の両方の候補者に多額の選挙献金を行う。ワシントン・ポストは、かつて民主党の大統領候補は選挙資金の60%をユダヤ系の支援者から得ていると推計した。イスラエルロビー(圧力団体)は、このような選挙資金提供などを通じ、米国の外交政策がイスラエルに有利になるように圧力を加えている―と主張している。

● 日本がイスラエルに学ぶべき対米外交
 学ぶことの第1。それは、外敵の脅威を的確に認識し、それに対する備えを行うこと。わが国は敗戦により米国から憲法9条を押し付けられ、正常な「脅威認識能力」が“退化”してしまった。憲法改正が急務だ。
 学ぶことの第2。「わが国の安全・国防は米国に委ねられている」と言っても言い過ぎではないだろう。イランの核開発がイスラエルに与える脅威同様に、中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発は日本にとっては深刻な脅威である。米国の対日コミットメントを信頼性あるものにするには米国に一途に付き従う『ポチ』ではダメだ。イスラエルが米国のイスラエルロビーを使って、米国外交を恣意的にコントロールする「凄腕外交」に学ぶ点は多い。外務省任せの対米外交ではなく、国民総力を挙げた対米外交を展開すべきである。

                                                                                       (平成24年4月2日)
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