北朝鮮の基本戦略は不変
国防北朝鮮のミサイル発射失敗で、核開発が加速へ
常軌を逸した「北」の対応に、準備を怠るなかれ

政策提言委員・元陸自西方幕僚長
  福山 隆

北朝鮮の基本戦略は不変

 金正恩新政権のスタートで、アメリカを始め関係国は、北朝鮮が柔軟化し改革開放に踏み切るのではないかというひそかな期待を抱いているようだ。しかし、北朝鮮の基本戦略は不変と見るべきだ。
 北朝鮮の基本戦略目標は金正日以来「金王朝の体制護持」である。筆者が大胆に予測する金正恩の今後の政策は、この大方針に基づき、@内政・軍事政策として「先軍政治による体制護持」と「米国を射程とする核・ミサイルの開発」の継続、A外交政策では、「中国の庇護を得る」という方針と同時に「第二のチベット」にならないために、「対米関係正常化・体制承認の獲得」を追求する、B経済政策としてはどん底の経済不振から抜け出すために、一定の改革開放の試行・推進する――というものだ。金正日時代に比べ、経済政策で新機軸を打ち出す可能性があると見ているが、本質的に父金正日のそれと不変と見るべきだ。

今次ミサイル発射実験の意義

 言うまでもなく、上記@の政策の一環であるが、あわせて金正恩政権の基盤固めの“祝賀のための打ち上げ花火”として活用したかったはずだ。

 父の金正日の場合は、自らの意思・戦術で、「喪に服する形」の演出を選択し、表舞台に登場するのを遅らせ、徹底的な権力闘争を優先した。

 それとは対照的に、正恩の場合は、父とその側近の「振り付け」――遺訓統治――を方針として、拙速に、しかも祖父金日成の生誕100周年の佳節にタイミングを合わせ、もっとも華やかな形で――ミサイル実験を敢行し国際的な猛反発を招くというシナリオまで付加し――デビューを演出しようとした。

 それが完全に裏目に出た格好だ。天候のせいにも、米国や日本の妨害のせいにもできない。自らの不手際によるとするほかない。

 米・中・ロなど世界の自制要求無視も無視して敢行した長距離弾道ミサイル発射実験が失敗したことで、あの強い面子にこだわる民族・国家が完全に「面子を失う」に事態に直面した。

考えられるシナリオ その1〜「責任転嫁」

 北朝鮮のデノミ(貨幣改革)の失敗の責任を問われて粛清された朴南基(パク・ナムギ)北朝鮮労働党計画財政部長が、一昨年に平壌(ピョンヤン)で公開銃殺されたと言われる。

 この例のように、成功すればその「功は金正恩」、失敗すれば「その責任は朴南基」というやり方で、粛清・事態処理が行われる。

 今回のミサイル発射実験失敗は時あたかも、政権確立の途上で暗闘(内部権力闘争)が行われている最中。ミサイル発射実験失敗が、まるで火に油を注ぐがごとく、暗闘を激化させることだろう。

 その結果として多くの「負け組」が濡れ衣を着せられて葬りさられるであろう。

 この暗闘が短期間に収束すればよいが、そうではなく混迷を深め、長期にわたる場合は、金正恩体制そのものが揺らぎ、最悪の事態としては内部崩壊につながる、という見方も排除できないだろう。

その2〜「パニック状態での誤判断」

 朝鮮民族は面子を重んじることにおいては世界に冠たる民族だ。今回の“鳴り物入り”で臨んだミサイル発射実験失敗でその面子は二重にも三重にも泥を塗られた格好だ。

 新政権はパニック状態に陥る可能性が大。北朝鮮政権は、「金日成生誕100年祝賀行事」のマスタースケジュールの中に「ミサイル発射実験失敗の場合の予備計画」を準備していただろうか。恐らく「ノー」だろう。

 従って、政権中枢は、“パニック状態の頭”で鳩首会議で「弥縫策」を検討するだろう。どんなアイデアが出てくるだろうか。次のようなものではないだろうか。

1)予定通り「核実験」を強行し、成功させ汚名をそそぐ。

 心理的な作用として考えれば、金正恩及びその側近は、むしろ今回の失敗を強いトラウマ・原体験として心に刻み、「核ミサイル強成大国」を目指し、核ミサイル開発を強力に推進することに強くこだわるだろう。

2)やり場の無い政権・人民のフラストレーション(内容は違う)を、一昨年末実施した延坪島砲撃事件のような暴挙で発散する。

 このような、冷静な思考からは生まれないアイデアが俎上に上り、これを敢行するかもしれない。(2)の「核実験」については、もともとミサイル発射実験とセットで準備されていたものかもしれない。

 が、もし、ミサイル発射実験が成功していれば、「核実験」はそんなに急がなくても、今後の米国との交渉で「ミサイル発射実験を不問に付し、支援約束を履行する」ことを勝ち取る「切り札」として利用できたかもしれない。

 ミサイル発射実験失敗が核実験を後押しするのは確実だろう。

その3〜「パニック状態沈静化の後北朝鮮はいずこに向かう」

 一定の時間を経て、パニック状態から覚めた後、北朝鮮は冷静さを取り戻し「勝ち組」――改革開放派なのか鎖国派なのかは定かではない――が、新たな動きを始めるだろう。

 改革開放派が勝ち組になれば、一定の緊張緩和が望み得るかもしれない。そうでない場合は、引き続き、瀬戸際外交により北東アジアを恫喝することになるだろう。

 いずれにせよ、金正日時代と同様に、北朝鮮に起因する北東アジアの緊張状態は継続すると見るべきだ。

喉元過ぎれば熱さ忘れる

 日本政府・国民は今回の北朝鮮のミサイル発射実験を深刻に受け止め、政府が迎撃用の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を石垣島に配備するなど、真剣に対応準備を行った。

 “平和ボケ”と言われる中で、真剣に安全保障を考える流れが生じ始めたのは評価できることだと思う。

 しかし、今回北朝鮮のミサイル発射実験失敗を受け、北朝鮮は「恐るるに足らず」という思いが国民の間に広がり、現状どおり安全保障をないがしろにすることが懸念される。

 実を言えば現下の日本を取り巻く情勢は、北朝鮮だけが脅威ではないのだ。

 戦後庇護してきた米国の力が相対的に凋落する中で、中国の急速な台頭、ロシアの復権、さらに言えば東海・東南海・南海地震の三連動地震の発生(しかも30メートルを超える津波を予測)が懸念されるなど、国民の生命財産が脅かされる事態が従来にないほど深刻化しているのだ。

 願わくば、日本国民が今回のミサイル発射実験を「行った事実」を深刻に受け止め、国民の生命を守ること――国防――に真剣に取り組む契機としてもらいたいものだ。
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