「『慰安婦』『徴用工』喧伝で韓国は何を得たのか」
―不可逆的解決で会費収入減という韓国団体の事情―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 「慰安婦」と「徴用工」問題は、日韓局長級の話し合いでは解決不能だった。日中対決が厳しくなる中で韓国があっさり降りれば、中国は「米国の味方になった」とみるだろう。日韓問題を国際問題に昇華させてしまったのは残念、と言うより愚劣だった。
 日韓の間に慰安婦問題が浮上したのは、1993年に河野洋平官房長官が「談話」を発表したのがきっかけだ。韓国側は「慰安婦に賠償金を支払え」という気になった。これに先立って慰安婦問題が日本国内でも浮上していた。「吉田清治」という元自称軍属が「朝鮮で女性狩りをし、慰安婦として戦地に送り込んだ旨の“小説本”を書いて、謝罪のために韓国各地を廻った。この本を朝日新聞が取り上げて宣伝したのに続いて、91年8月11日付けで植村隆記者の「強制連行された」女性の告発記事を載せた。
 慰安婦問題についての河野談話は、韓国に対して政治的配慮を加えたもので「事実ではなかった」と、談話聴取に立ち会った元政府高官が証言している。根拠となったのは吉田清治の本と植村隆記者の誤報ともいえる記事だった。詰めて言えば、朝日新聞が根拠なく流したヨタ報道が慰安婦問題の根源だった。
 その結果、韓国でも日本でも「慰安婦」だったという人物が現れた。当時、韓国で発行された「京城新聞」の慰安婦募集の広告を見ると「月給300円」とある。エリート大卒者の初任給が50円の時代だったから、応募が殺到したそうだ。“強制連行”する訳がない。
 しかし韓国側は「慰安婦問題は事実である」と固く信じて、ソウルの日本大使館傍らや各国に慰安婦像を建てて回っている。私が全く理解できないのは、この行為である。韓国人に虚心に尋ねたい。慰安婦問題ではっきりした根拠があり、問題が存在したと仮に証明されたとして、この像によって、韓国は世界に何を訴えようというのか。
 「オレたちは日本人にひどい目に遭った」と言いたいのか。世界に宣伝して「日本は悪い国だった」と分からせたとしても何の利益があるのか。500年前は、朝鮮は中国の一県だった。中国との争いに敗れて女性を何十人単位で連れていかれて奴隷にされた歴史がある。この歴史が事実なら、その惨事も世界に訴えて同情を引いてはどうか。
 日韓条約は65年に締結されたが、当時、慰安婦業は公認の職業だった。不都合があるとすれば、給料や賃金の未払いだが、米軍のミャンマー(旧ビルマ)での調査では、不払いはなかったという。
 安倍晋三前首相は、朴槿恵前大統領との間で10億円支払って「不可逆的に」問題を解決したはずだった。ところが韓国側は配り始めた日本の賠償金を突き返してきた。国内で賠償金を集める団体があって、不可逆的に解決されると会費が集まらなくなって団体が存続しなくなるからだという。勝手にしろ、と言うしかない。
(令和3年4月7日付静岡新聞『論壇』より転載)