Key Note Chat 坂町

第153回
「米大統領選と今後の日米関係」

長野禮子
 
 
 令和3年初の開催となった1月7日、ロバート・エルドリッヂ氏を久々にお迎えし、先の米国大統領選挙と今後の日米関係についてお話し頂いた。 
 冒頭、エルドリッヂ氏は2020年米国大統領選挙をして「静かではないクーデター」という言葉を用い、民主党バイデン候補が重ねた得票の裏にある不正は事実との見解を示した。また今般の大統領選挙によって政治、メディア、警察、制度(投票・司法)、政府、裁判及び自国民の不信を買うこととなり、国内の分断は地域、階級、イデオロギーを超え、職場、友人、家族にまで及んでいると言う。こうした事態は過度のバイデン擁護・トランプ批判によって生み出される情報格差によって生じた。実際、エルドリッヂ氏は今回の大統領選挙はコロナ禍と組織的な不正に加え、メディア、IT業界等反トランプ勢力によってこれまで以上に現職大統領にとって厳しい戦いとなったと分析する。
 バイデン政権発足後の展開については、バイデン政権が正当性を欠き、民主党政権時のスタッフを再登用することを「リサイクルショップ」に準え、ハリス副大統領への花道を用意して短命政権になると辛辣に語った。仮にバイデンが健康問題を理由に1、2年で閑居した場合、ハリスが事実上10~11年もの間大統領権限を振るうことが可能となる。このことは就任後の米国社会に政治的無関心を促し、ローンや破産など一般国民の台所事情が悪化し、政治が混乱する事態を招くと言う。
 今後の米国政治は「3つの“I”」、即ち①Internationalist(進歩的な左派が集う、人民党)、②Interventionist(介入主義的でネオリベラル派が集う民主党)、③Isolationist(伝統的な孤立主義を尊ぶ保守派が集う共和党)―の3党に分かれるという大胆な予想を披露した。 
 最後に、日米関係の展望については、まず一連の米国内の混乱と低調な経済によって、日本は唯一の同盟国としての米国を失うことに加え、2013年12月の安倍首相の靖国参拝にオバマ政権が「失望」を表明したことでも明らかなように、米国民主党政権下で日本は国内政治においても難しい舵取りを強いられる局面が増えると予測する。尖閣問題や日韓関係といった重要課題においても、日本は米国からの支援を期待できないなど、長期的潮流で日本は不利になるというのだ。次第に日本国民はバイデン政権との温度差とバイデン政権に摺り寄る菅政権に違和感を覚えることになるだろうと語る。
 質疑応答では、今の分断された米国社会の「Unity(一体、統一)」が出てくるのか乃至は今後も続くのかとの質問に、エルドリッヂ氏曰く、そもそも米国社会において「Unity」は幻想に過ぎなかったのではないか、と思い始める米国人が増えているという。このことは一部の余裕のある米国人にとっては見えていたが、そうではない人々も「Unity」をイメージできないことを知ってしまったのではないか、と言うのだ。バイデン自身が「1994年暴力犯罪統制及び法執行法(所謂、クライム法)」でアフリカ系米国人を社会復帰から排除する意図で法案を提出した張本人であることから、国家の「Unity」を彼に期待することは見当違いだと言う。  
 奇しくも今回の「Chat」当日(日本時間1月7日)、ワシントンD.C.ではトランプ大統領支持者と見られる人々が連邦議会議事堂(Capitol Hill)に乱入し、一時占拠した。20日の大統領就任式を前に死者を出したこの“超非常事態”は、バイデン当選を正式に認定する上下両院合同議会が中断する事態に陥った。民主主義の殿堂とも言える場所で発生したこの前代未聞の事態は、自由・民主主義の盟主たる米国の醜態となった。同時に、2020年の選挙結果による米国分断、更には間もなく就任を迎えるバイデン民主党政権の進む道がいかに「茨の道」であるかということを象徴する出来事であったと言えよう。こうした混乱を尻目にほくそ笑むのは更なる覇権を目指す中国である。
 この新時代にあって日米の強いリーダーシップと日米豪印(Quad)に加え、英、仏、独との一層の連携強化に期待したい。
テーマ: 「米大統領選と今後の日米関係」
講 師: ロバート D. エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・政治学博士・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
日 時: 令和3年1月7日(木)15:30~17:30

第152回
「アメリカは、中国とインド太平洋をどうしようとしているのか」

長野禮子
 
 東日本全体が厳しい寒波に見舞われた12月18日、米国ワシントンD.C.より帰日したばかりの長尾賢氏(ハドソン研究所研究員・JFSS上席研究員)をお迎えし、米国から見たインド太平洋情勢及び米国による同地域戦略に対する政策提言についてお話しを頂いた。
 冒頭、長尾氏はハドソン研究所にて同氏が取り纏めた政策提言報告書『インド太平洋戦略―米国と志同じくする国々(Strategies for the Indo-Pacific: Perceptions of the U.S. and Like-Minded Countries)』について触れ、米国の情報収集体制の優位性と我が国の情報収集能力の脆弱性についての対比について触れた。更に、長尾氏は昨今緊張度合いの高まる印中情勢について専門的見地から解説を加えた。2019~2020年にかけて印中対立が本格化し、インド側に死者の出た武力衝突が発生して以降、両国は国境周辺地域で軍事インフラを整備したという。中国は同地域に各種新兵器を投入し、インドは4~8月に中国製品のデカップリング及び経済制裁、並びに9~10月に国防費増額、軍の自由行動権限拡大といった対抗措置をとった。
 本題ではインド太平洋から見た米国分析が披露された。中国がCOVID-19蔓延に伴い発生・拡大の責任を他国に転嫁し、その軍事的活動を活発化させている。一方、米国では既に約30万人超の死者を出していることから、米国世論の中国に対する印象の悪化が2020年10月の世論調査からも明らかになった。こうした米国の強硬姿勢はコロナ禍前から徐々に確立してきた。2017年には国家安全保障戦略の中で中国を「競争相手」として名指しし、2018年のマイク・ペンス副大統領演説では中国を米国への脅威として位置付けることを国内向けに掲げた。同時期には所謂「米中貿易戦争」に突入している。こうした米国の動きは軍事編成面でも表れており、中東や欧州からの撤退とインド太平洋司令部を創設し同盟国により大きな負担を求めている。米軍本体は資源を節約し陸・海兵隊を削減し海・空・宇宙・サイバーに比重を移している。
 次に、米国は自国優位を覆そうと技術力・経済力といった軍事力の基盤を整えつつある中国にどのように対処してゆくかという点である。長尾氏は中国の問題化の源泉に着目する。つまり、米国は中国問題の本質は軍事力が急速に近代化し、軍事バランスの変更を可能にせしめる潤沢な資金にあるとみていると分析。そこで米国は中国の収入削減を安全保障戦略とする。現に「貿易戦争」「ハイテク戦争」は中国の収入にダメージを与える政策である。長尾氏によればこうした米国の方針は政権交代に伴う微修正はあるものの基本的には当面維持されるとのことだった。
 最後に、上記分析による日本への示唆については、欧州諸国やインドといった米国の同盟国は、高関税の設定等経済分野において中国のデカップリングを進め、軍事分野ではインド太平洋への艦艇派遣、共同演習実施といった形で負担共有を進めている。日本はこうした事例を参照すると共に、①「米国サークル」の中で友人を増やすこと(「ファイブアイズ」への加入)、②欧米諸国ではできないことを受け持つ(東南・南アジアでの圧倒的な支持)、③非ヨーロッパ系(非宗主国)であること――これらを生かし世界を俯瞰した外交・安保政策を展開してゆくべきだという論を展開した。
 質疑応答では、米国が日印という2つの同盟国を比較してどう見ているかという点について質問があった。米国の視点に立つと「どちらが役に立つか」という判断になる。将来的にインドの重要性は必ず増してくるが、日本はやり方次第でそれを逆転する事もできるという。つまり、インドは米国との同盟で利益を享受してきた経験が浅いため、その分米印で調整を進める上では日本に利がある。他方、インドは過去数世紀に亘って多くの移民を出し影響力を発揮してきた。米国も移民を受け入れ「~系米国人」としてその知識、情報、文化、価値を取り入れて力に変えてきた。日本は対米影響力の増加を図る上で日系米国人の力を借りて米国内法案を提出するという手段も考えられるだろう。
 今回のお話しは現在進行形で連携強化が進む日米豪印4ヵ国対話枠組み(所謂「クアッド」)の根底を流れる米国のインド太平洋地域に対する政策を概観することができた。だが、「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出した当事国であるはずの日本は依然として中国に配慮して対話に留まり、具体的な安全保障交流の発展に足踏みをしているように思われる。一日も早いインド太平洋を中心とする対中包囲網の構築を期待したい。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「アメリカは、中国とインド太平洋をどうしようとしているのか」
講 師: 長尾 賢 氏(JFSS上席研究員・ハドソン研究所研究員)
日 時: 令和2年12月18日(金)14:00~16:00

第151回
「菅政権の憲法改正と安全保障政策」

長野禮子
 
 今回は山田宏氏(自民党・参議院議員)をお招きし、発足から約3ヵ月を経た菅政権の下で、日本にとって克服すべき課題についてお話いただいた。
 まず専守防衛及び日米同盟について、従来の「矛と盾」という役割分担は昨今の安全保障環境にそぐわないことから、抑止力の大前提である「矛」の重要性を説いた。即ち、敵基地攻撃能力の整備と集団的自衛権の拡大という提言である。米国に「矛」の役目を任せ続けるのではなく、日本も同盟国としての責務を全うし、対等な関係を構築した上で日米安全保障体制を追求するべきだと述べた。
 また、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用条件である「日本国の施政下にある領域」に該当するとしても、有事における米国の対応が遅滞する可能性を日本は想定しておかなければならない。無人島の島々を本当に米国が防衛するのかという現実問題を直視し、例えば調査目的での上陸や、建造物の造営等、何らかの事前措置を講じるべきと主張。
 ここで氏は、以下3つの対中対策案を挙げた。
 ①中国とのデカップリング(切り離し)。― 新型コロナウイルスによる経済安全保障の観点から、中国に生産拠点を置く企業の日本回帰又は中国以外の国へ移転するための政府補助金を更に増やす。 
 ②尖閣諸島周辺の警備に当たる海上保安庁の増強。― 米国やイスラエルに倣い先進的な警備力を備える必要性がある。 
 ③外務省の領土主権に対する外交努力。― 米国に対し日本の尖閣諸島領有権を認めさせる外交努力を推し進める。
 台湾防衛については、現役武官同士の日台交流を実現させ、多国間で実施される様々な取り組みに日台双方が参加し、互いに安全保障環境を模索するなど、運命共同体としての具体的取組を進めるべきと強調。 
 憲法改正については、安倍政権時は反対勢力により実現できなかったが、菅政権下では改正に向け進めやすい雰囲気があると言う。9条に明記すべきは「自衛隊」ではなく、国際社会でも認知されている軍隊としての存在を明確にするべく、「自衛軍」とするのが相応しいとした。 
 経済安全保障については、特に情報技術分野は軍事転用の脅威となる可能性が高いため、日本も対中警戒意識を強め、冷戦期に設立されたCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)を日本が主導し、懸念事項については明確に「No」を突き付けられる体制を整えることを提案した。 
 この他、歴史的にも関係が深い中国周辺の親日国を対象とした外交を進め、東シナ海への中国の意識を逸らせ、米国が不得手とする分野で日本の外交力を発揮していくべきだと締め括った。
 質疑応答では、台湾有事と直結している東シナ海問題について、依然として「中国への配慮」が続き、国会での議論が不十分であること、メディアによる国民への周知が不足していること等が指摘された。
 中国の脅威に対する危機感を共有し、「自分の国は自分で守る」という気概と国民的議論を高め、日本国の将来を真剣に考える姿勢が今、我々日本人に求められている。今後も一貫した山田氏の政治家としての取組に期待したい。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「菅政権の憲法改正と安全保障政策」
講 師: 山田 宏 氏(JFSS顧問・参議院議員)
日 時: 令和2年12月14日(月)14:00~15:30

第150回
「新しい国のかたちを求めて」

長野禮子
 
 今回は、日本維新の会の松沢成文氏(参議院議員、元神奈川県知事)をお迎えし、我が国が現在抱えている諸課題、国家としてのあるべき姿について思いの丈をお話し頂いた。
 まず松沢氏は現代日本の礎となった明治維新以降の制度改革から振り返りつつ、日本が高度経済成長により大きく発展した歴史に触れながら、現在の日本が直面している課題として、東京一極集中と地方の過疎化をもたらした現実に言及した。その最中で小泉政権により行われた三位一体の改革には功罪両面があるとし、また道州制についてもかつては盛んに議論の対象になったものの、結局実現には至らずにいる現状を指摘。特に地方分権改革が様々な分野における既得権益により阻まれた点を強調した。
 制度改革が十分に進まない中、松沢氏は今後の国の在り方を考慮する上で必要な改革案を述べた。まずは天皇制・皇居にかかる所見について、国家・国民が天皇制の下で統合を果たしているこの日本の体制は良しとしつつ、東京一極集中の解消策として、皇室の関西移転を提案。皇室が明治期に京都から現在の東京へ居を移すまでは西が文化の中心であった歴史があり、天皇の権威と政治の融合により近代日本を形成する目的は果たされたため、政治の首都は東京のままとし、文化の首都を関西のいずれかの地とする二都構想を挙げた。
 また、現在皇居となっている江戸城跡に関し、かつて江戸の空に聳えていた天守閣再建計画を紹介した。江戸時代に大工棟梁であった家に伝わる設計図を基に復元を目指すという。そしてその財源は税金ではなく民間資金(寄付金や融資)で賄うことが可能であると述べ、このような文化財の保存事業は実物の保存、技術(城大工・宮大工)の継承、観光業への貢献といったメリットがある。
 続いて日本の歴史教育に話題が移った。中国や韓国の歴史教育の内容はやはり日本批判のきらいがある一方で、当の日本では受験対策に偏りがちな内容(年号暗記など)が多い面を指摘し、日本の子供たちが将来大人として海外を相手にする際に真っ当な話が難しくなると警鐘を鳴らす。自国の歴史を学ぶために神奈川県知事時代の松沢氏の肝煎りで実現したのが、県立高校での日本史の必修化だ。更に、日本史・世界史との区別を取り払い、国際関係における日本の近現代史を学ぶための「歴史総合」科目の必修化という教育改革を実行している。ただ、教科書の選定は困難な面があるという。
 依然として日本を取り巻く環境が厳しさを増す安全保障については、アジアは欧州の功績に学ぶべきだと提言し、アジア版NATOの形成に言及した。特に南シナ海で周辺国との摩擦を引き起こしている中国への対応を念頭にしたものである。構成国にはまずは米国が必要不可欠であると述べ、ASEAN諸国、豪州、インドの他、英国、フランスという欧州の大国の名も挙げた。そして中国もこの同盟に加え、何らかの違法行為が行われた際には加盟国全体で制裁に訴える等の案も出た。
 日本の憲法改正については、安全保障および国家緊急事態に関する条項が現行憲法に明記されていない現状を指摘し、改正憲法には自衛隊の役割を明記すべきだと述べた。一方で、野党の反対により憲法審査会での議論が進まない現状に厳しい意見を示した。
 松沢氏は他にも、新型コロナウイルスの対策で成果を挙げた台湾のWHO加盟への賛意や、福島県の原発・汚染水処理問題等、幅広い分野について見解を述べた。
 質疑応答では、日本の離島管理や海事人材の確保や、少子化対策といった多くの話題が議論されたことは勿論、多様かつ大胆な氏の発想や主張は出席者の共感を呼んだ。特に憲法問題や我が国を取り巻く安全保障への取組については、現状を見据えた国家運営とは言い難く、独立国家としての体も成されていない。こうした現実に憂国の思いを引きずりつつ、改めて「国家のあるべき姿」を再考する良い機会となった。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「新しい国のかたちを求めて」
講 師: 松沢 成文 氏(参議院議員・元神奈川県知事)
日 時: 令和2年12月7日(月)15:00~17:00

第149回
「ワシントンから見た日米関係――Washington-View Nov. 2020」

長野禮子 
 
 世界の注目を集めた米国大統領選挙から早3週間を過ぎた11月27日、米国より帰国中の吉田正紀氏をお迎えし、11月3日に投票が行われた米国大統領選挙および次期政権の安全保障政策ついてお話し頂いた。
 今回の大統領選挙は得票数で歴代1位となったバイデン氏と同2位のトランプ大統領が戦った一戦であったが、吉田氏はこの歴史的得票数が持つ意義に焦点を当てた。2016年の大統領選挙ではトランプを擁する共和党が勝利したが、その中身を詳細に見てみると、共和党+トランプ党という層ができており、後者が民主党の取り分を食う形で共和党が勝利を収めたという。同党が敗れた2018年の中間選挙では、同氏によると穏健的な共和党議員が引退、一方でトランプに忠誠を誓う議員が台頭、即ち「共和党≒トランプ党」という構図があったからこそ、敗北の傷はそれ程大きくならなかったという。そして2020年で再び共和党が敗れはしたものの、歴代2位の熱量を帯びた勢いはまさにトランプ教とも呼べるものであった。
 その後の情勢は予断を許すものではなく、上院で共和党が過半数を確保すれば、ねじれの効果によりバイデン政権は共和党とのディールに腐心しなくてはならず、重要法案が成立しにくくなり、場合によっては2022年の中間選挙で下院でも敗れるケースも想定される。この他にも今回の大統領選挙の結果を受容しない過激なトランプ支持層が起こすデモに対し、米軍が今度こそ治安維持に動員され内乱状態になるシナリオも無視できない。
 新政権誕生後の展望については、ひとまずバイデン政権の優先事項は内政(コロナ対策、国内経済)となり、軍事費は抑制的(頭打ち)になるようである。対中政策に関して、オバマ民主党政権にとって最大脅威はロシアであり、次いでイスラーム国(ISIL)が続いており、中国は「懸念すべき」対象にすぎない。しかし今では超党派の合意形成が容易である程に対中認識が変化しており、米国民の多くも中国を脅威として認識している。一方で、中国とは気候変動での協力が重要との意見もあり、この分野で中国が主導権を握る可能性もあるという。
 そして日本の安全保障の要である日米同盟に関しては、同盟の質的変化に言及し、戦後の「強く正しい」米国から今では相対的に「弱く正しくない」米国と向き合わなくてはならない日本の覚悟が求められていると主張。また、新型コロナウイルスの影響により米中関係が貿易や技術で優位性を確保する競争(Competition)から、体制や規範の相違による排他的な対立(Confrontation)に変化したとする見方を紹介し、「建党100年(2021年)」、「建国100年(2049年)」そして「建軍100年(2027年)」を控える中国への警戒を強めるべきだと話した。
 現在、目下の危機としては台湾有事であり、日本(南西諸島)が有事となる蓋然性が高まっている。日米台間で、政治・経済・軍事的認識の共有がなされてない現状のまま、中国海軍力の優勢が続けば、同盟の抑止失敗、戦略・作戦上の不測の事態に陥ると吉田氏は警鐘を鳴らす。そのための日米同盟の抑止力強化は不可欠であり、①価値、②利益、③行動という3つの共有を提言した。その上で、日米同盟は地政学(政治・安保、軍事)、地経学(経済、金融、通商)、地技学(大量情報処理、AI、ロボット技術)的見地から、幅広いコンテクストで再・再定義を議論して行かなくてはならないと強調した。
 質疑応答では次期米国政権で確実視されている米国防予算の削減方針について、日本はどう向き合うべきかという議論に及んだ。軍事費削減は、米軍の力の相対的低下、それに起因する士気の低下、事故の増加といったマイナス面が大きいという。それだけでなく、戦略や装備に関連する大規模な変革が伴う場合が多いが、これは時間を要する。このような状況では国防のみというよりも、外交、経済を使った包括的なアプローチをもって同盟関係の維持・強化を果たす必要があるだろう。
 今回、吉田氏の話の中で「弱く正しくない」米国とどう向き合ってゆくかという同盟の再・再定義について触れていたことが印象的だった。この意味で今まさに日本は本来同盟国として当然の「ものを言う」同盟国、ひいては信頼できる真のパートナー国となるか、口と金だけの友好国のままか、自ら決断する時期にあると言える。
 在日米軍駐留経費に関する特別協定が2021年3月に期限を迎えようとしているなか、今後の日米同盟の深化に思いを巡らせる機会となった。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「ワシントンから見た日米関係」
講 師: 吉田 正紀 氏(JFSS政策提言委員・元海自佐世保地方総監(元海将))
日 時: 令和2年11月27日(金)14:30~16:30

第148回
「経済安全保障の切り口で」

長野禮子 
 
 秋深まる11月13日、参議院議員の有村治子氏を迎え、経済安全保障を切り口に我が国の現状と今後の取り組みについてお話し頂いた。  
 経済安全保障とは、通商・貿易、金融、流通、医療といった多岐に亘る分野での脅威と安全保障が切断不可能な関係にある現代国際社会にあって、これらの領域における安全の確保(脅威の除去)が国家安全保障に結びつくという、比較的新しい概念である。
 これまでの軍事・防衛を中心としてその道の専門家(プロ)集団が率いてきた伝統的安全保障の概念とは異なり、所謂「専門家」のいない―裏を返せばあらゆる人々が「メイン・プレイヤー」になり得る―発想である。更に言えば、伝統的安全保障だけで国家は守れない状況にあるということである。
 この経済安全保障を私たちに強く意識させた要因は、コロナ禍で寸断された地球規模の供給連鎖(サプライチェーン)の中で、日本がマスクなどの医療品を中国を含む海外からの輸入に依存しているという現実を身をもって体験したことにある。近年、自動車など最終財を製造する多くの国々は、そのサプライチェーンの中に中国が部品やソフトウェアの供給という形で入り込むことで、目に見えた戦闘や侵略のないまま「静かに進む侵略」を受入れ、いつの間にか中国のコントロール下に置かれてしまっているという現実問題を抱えている。
 米国では2016年にトランプ政権が誕生して以降、自国市場からの中国の「デカップリング(切り離し)」を速度感をもって進めている。
 日本も多くの日本企業が中国を始めとする世界の国々に展開し商品を供給している状況において、かつては製造拠点や部品供給拠点としての中国を完全に排除することは困難との見方が強く、与党内でも依然として足並みが揃っていない。
 しかし近年、経済安全保障に対する取り組みは見直されつつある。その1つが、日本政府が中国からの移転を検討する企業への支援を開始したことである。国民生活の安全を優先して考える経済安全保障は、党派やイデオロギーを越えて対話を促す概念として大切にする価値ある政策と言えよう。
 中国は2020年5月、豪州が中国に新型コロナをめぐる独自調査を提案したことの報復として、豪州の食肉などが中国市場から排除されつつあり、似たような現象はカナダやフィリピンにも及んでいる。中国は自国の巨大市場を武器に戦わずして相手国の根本を揺さぶる脅しをかけたのである。このことは日本にとっても他人事ではなく、尖閣諸島国有化直後の民間人の拘束など、中国があらゆる分野で戦争を仕掛ける「超限戦」を経験したと言える。
 これに対し、有村氏は同盟や国際社会との連携によって対応して行くべきであると提案する。氏はまた、中国の「千人計画」を始めとする日本の研究成果や中国への技術流出・実用化を断固として許すべきでなく、国家国民の利益に反することは国民の代表として問い続けてゆくことを言明した。
 質疑応答では、有村氏から主権の重要性に関するお話があった。このことは、我が国の領土における防衛義務を全うするための覚悟と、その責任を政治に問う必要と価値を確認する機会となった。「他国の干渉や支配を受けずに自らの権利を行使する至高の権利」たる対外主権は、自国の独立を守る上で国民の理解を促し、その意識を強く発信する必要性が欠かせない。一方で、憲法改正については、政治家が改憲への意欲を言及すればするほど、票を減らすかも知れないという「十字架」を背負っていると、氏の正直な言葉が最後まで頭に残った。
 この国の将来を考える上で、有村氏のような気概ある議員を選出する責任は、有権者である我々自身の双肩にかかっている。このことを改めて認識するいい機会であったと共に、熱く説く有村氏の姿勢に政治家としての頼もしさと、今後の活動への期待を強くした。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、少人数での開催とし、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「経済安全保障の切り口で」
講 師: 有村 治子 氏(参議院議員)
日 時: 令和2年11月13日(金)14:00~16:00