東京五輪で使ってはいけない2つの言葉

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 東京五輪の聖火リレーが始まったが、果たして開会することは出来るのか。不透明感が増している。公益財団法人「新聞通信調査会」が3月20日、米国、フランス、中国、韓国、タイの5ヵ国で行った世論調査の結果を公表した。新型コロナウイルスが収束しない中での東京五輪・パラリンピックの開催について、「中止すべきだ」「さらに延期すべきだ」を合わせた回答が、すべての国で7割を超えている。これは日本国内でも同様でほとんどの調査で「中止」「再延期」が7割から8割に達している。
 今回の五輪について、政府は「コロナに打ち勝った証しとして、完全な形で開催する」と強調してきた。だがコロナの現状はどうなっているか。世界では1億3,000万人を超える感染者、280万人を超える死者が出ているのだ。日本でも48万人以上が感染し、死者は9,000人を超えている。日本でも世界でも、感染者と死者が日々増え続けている。
 この結果、日本のオリンピック組織委員会とIOC(国際オリンピック委員会)は、海外からの観客は受け入れないことを決定せざるを得なかった。「コロナに勝った」ではなく、「コロナが勝った」のだ。「完全な形」での開催もこれで出来なくなった。
 切り札と言われるワクチンはどうか。ワクチン接種回数は、日本の場合、世界の中でも圧倒的に少ない。接種を完了した人数は、4月5日現在でアメリカでは6,037万人、トルコ712万人、イギリス、ロシア、イスラエル、ブラジル、ドイツが400万人以上、日本はわずか18万人に過ぎない。これは人口の1%にも満たないということだ。これでは国民の安全を確保する事は出来ない。
 私は元々東京でオリンピック・パラリンピックを開催することには反対だった。東京はすべてのものが集中し、あらゆる面で過密、飽和状態になっている。1964年の東京五輪のように、敗戦から復興し、これから高度成長を成し遂げていこうという時代ではない。どうしても日本でやりたいなら、福岡とか札幌など、東京以外の都市でやるべきだと考えていたからだ。
 とってつけたように「復興五輪」などと言われてきが、本当にそうなっているのか。確かに交通インフラなども整備され、仮設住宅に住んでいる人も大きく減少してきた。だが聖火リレーが福島から始まった3月25日、県外の避難先から見に来たという男性が、“きれいになった所だけを走らせている。走るなら壊れたままの家や被災したまま放置されている所を走らせるべきだ”と憤る姿がテレビで放映されていた。
 3月4日付のロイターの記事によれば、白い防護服に長靴姿の男性が、「傷んで雑草がはびこる自宅の前に立ち、あたりを見回しながら、つぶやいた。『住居の墓場に来たみたい』」と報じている。未だに4万人を超える人々が避難生活を余儀なくされている。この現実から目を背けてはならない。
 「復興五輪」などという言葉で問題を覆い隠してはいけない。