拡散する金正恩影武者説

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政策提言委員・拓殖大学主任研究員・元韓国国防省分析官 高 永喆

 1986年11月14日、何の前兆もなく北朝鮮の金日成主席の死亡説が流されたことがある。
 だが4日後、金主席が平壌順安空港でモンゴル人民革命党書記長を迎える映像が流され、世界が偽情報に踊らされたことが明らかになった。当時、北朝鮮が金日成死亡説を流した狙いは日米韓の情報判断能力を試す情報心理戦であり、金日成のカリスマ性を高める狙いだった。
 ところで9月9日の北朝鮮建国73周年記念式典に登場した金正恩総書記が影武者ではないかとの見方が広がっている。昨年4月12日から金総書記の重病説や死亡説が流れ、同15日の故金日成主席の誕生日に金総書記が金主席の遺体が安置された太陽宮殿に参拝しなかったことが確認された後、金正恩死亡説は急に拡散された。北朝鮮は金正恩死亡説が国内外で広まると、混乱を払拭するため、5月1日、順天肥料工場竣工式に金総書記を登場させたが、彼も本物ではなかったとみている。
 今回、9日の建国記念式典パレードに現れた金総書記の姿にかつての面影はなかった。ダイエットしたとはいえ、20代前半を彷彿させる若過ぎる姿だった。専門家の間では本物か偽物か論争になっているが、金総書記には10人以上の影武者がいて、これまでも影武者が登場したとの指摘がある。
 最高指導者の警護部隊である974部隊傘下には「代役研究所」があり、影武者10人以上が常駐して、彼らが、最高指導者が参加する行事や軍部隊訪問および地方視察に同行しているというのだ。代役研究所の整形術や化粧術などで成り済まし・偽装技術は世界一という脱北者の証言がある。
 今回の記念式典のパレードには、弾道ミサイルや戦車、軍部隊の行進は全くなかった。記念パレードから軍部は完全に排除されたのだ。従って、労働党と軍部との主導権争いが垣間見える。
 最高指導者が不在だからこそ、党と軍部の主導権争いが発生すると考えざるを得ない。今のところ金総書記の重病説と死亡説は半信半疑であり確定は難しい。ただ、10月10日の朝鮮労働党創建記念式典に再び影武者が現れたら、本物の金総書記の不在説は現実味を帯びる。金総書記の失脚説にも一層注目が集まりそうだ。
 *本稿は9月28日付「世界日報」に掲載したコラムを部分的に修正したものです。