「分かり易い総選挙」
―総裁選ではっきりした候補者の本質―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 今回の組閣は、後ろに衆院選を控えているせいか、立候補声明が政権構想のようになった。かつて派閥はひとりも残さずまとまったものだが、今回はどの派も四分五裂した。麻生太郎氏の派閥から河野太郎氏が立候補したが、麻生氏は河野氏の打ち出す「原発ゼロ」には反対。従って派閥の仲間たちには「自由投票」とした。昔なら「原発ゼロならクビだ」と追い出すところだが、傷物でもスパッと簡単には切れないところが昨今の派閥だ。
 高市早苗氏が政調会長に就任した。政調というところは全ての政策の最終関門だから、自民党政策の総まとめのような最終関所である。その関所に座る前、高市氏は有力候補者の一人として、自らの政策を述べた。内容は安倍晋三氏が8年がかりで積み上げてきた地球的規模の外交と、経済ではアベノミクスの延長というサナエノミクス、憲法改正、男系皇位継承論。深刻な中国リスクへの対策として示したのは軍民の技術窃盗防止策である。
 総選挙でもこれだけ骨太の政策をまとめて出すことは難しい。皇室問題では河野太郎氏が「女系でもいい」と述べていたが、固い保守層には驚くべき発言なのである。原子力についても「小石河(小泉進次郎、石破茂、河野太郎)」と呼ばれる3氏連合が「原発ゼロ」を標榜していた。政府のエネルギー基本方針では、原発を25%程度維持しなければ、工業国家としての存立が危うくなるだろう。菅首相も「カーボンゼロ」方針に傾いた。カーボンゼロということは石油、石炭をゼロにし、エネルギーを全て太陽光などの自然エネルギーで賄うとの考え方だ。岸田総裁も「核のない世界」という書を出版したが、これほど軽い本はない。深く自省すべきだろう。
 河野外しの音頭を取ったのは安倍晋三氏だと言われたが、少なくとも河野氏が天下を取っていれば対中強硬路線は崩れ、QUAD(日米豪印)もAUKUS(米英豪)同盟もぶち壊したのではないか。河野家は中国に太陽光発電関連の会社を3社保有している。日本の原発ゼロや太陽光発電の増加はそれだけで中国の利益、河野家の儲けにつながる。外相を辞めるに当たって、政府が秋田に配備しようとしていたイージスアショア(地上配備型ミサイル迎撃システム)の配備を取りやめたことなどは、露骨な中国へのゴマすりだ。
 岸田氏は自らを「人の言うことをよく聞く人」と評している。それが頼りないという評もあるが、今回の人事を見ると河野氏の再起はかなり難しくなったと見ていいだろう。
 田中角栄氏が一頃、150人もの派閥要員を誇ったが、当時の総裁の才覚の一つは金集め。選挙制度を小選挙区比例代表並立制に改革したのは、良識ある議員はほぼ全員、同志が争う中選挙区制を嫌ったからだ。派閥もできるが無派閥も100人近く存在するという今の姿は自然だ。政策を明白に見せて選挙に臨む今回の形が最も良いとなれば、今後3年ごとの総裁選に合わせて総選挙をする方がよい。
(令和3年10月6日付静岡新聞『論壇』より転載)