ヒラリー・クリントン氏が大統領選に再登場!?

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 アメリカの大統領選に民主党側の候補としてヒラリー・クリントン元国務長官がまた出馬するのではないかという推測が各方面で語られるにようになった。民主党の現在の候補たちの不調やトランプ大統領への弾劾攻勢などクリントン女史が出れば、民主党側により有利な戦いが期待できるという現実的な観測も広まってきた。では前回のトランプ対クリントンという対決が2020年にも再現される可能性は本当にあるのだろうか。

 2016年の大統領選でトランプ候補に負けたクリントン氏は激しい政治的打撃を受けて、しばらくは公私ともに静かだった。だがこのところまずアメリカのいくつかのメディアが「ヒラリー・クリントン氏の2020年の再出馬も考えられる」という趣旨の報道を政治専門家らの読みとともに流し始めた。
 9月から10月にかけて、たとえばニュースウィーク誌は「国際的なブックメーカー(欧米の賭け屋)たちは20年のアメリカ大統領選での見通しではもしクリントン女史が立てば民主党側のいまの候補たちよりも勝算がずっと高いとみている」と報道した。
 ナショナル・インタレスト誌やワシントン・フリービーコンという政治メディアも「民主党側のいまの窮状だとクリントン氏が立つ可能性も否定できなくなった」という趣旨の選挙ウォッチャーたちの観測を伝えた。
 こうした推測の根拠としてはまず第一に、クリントン氏自身がごく最近、トランプ大統領への再チャレンジの意欲を示すような発言を重ね始めたことがあげられる。
 クリントン氏は娘のチェルシーさんとの共著で「根性のある女たち」というタイトルの本を9月末に出版した。内容は女性の社会進出を自分自身の体験を中心に論じていた。同書は全米的な関心を集めたが、その宣伝を兼ねたCBS,PBSなどのテレビ・インタビューに出たクリントン氏はトランプ大統領を「腐敗した人間」などと酷評し、「(クリントン氏自身による)再挑戦が必要になるかもしれない」と述べた。来年の選挙戦への出馬意欲の表明と受け取られ、波紋を呼んだわけだ。
 第二には民主党側の最有力候補とされたジョセフ・バイデン前副大統領の人気の低落が指摘される。
 いままで民主党側で正式に名乗りをあげた候補たちには社会主義者だと自ら宣言するバーニー・サンダース上院議員や同じく過激派リベラルのエリザベス・ウォーレン上院議員など民主党でも極左とされてきた政治家が多い。そのなかでバイデン氏は穏健派として民主党内でも最高の支持を集めてきたが、トランプ大統領に対する「ウクライナ疑惑」とそれにからむ弾劾への動きで支持率を急激に落としてしまった。
 「ウクライナ疑惑」はそもそもバイデン氏の息子ハンター氏のウクライナのガス企業への関与の不正が疑われたことが発端だったからだ。トランプ大統領への疑惑が強調されると、同時にバイデン氏への疑惑も高まるという皮肉な現象だった。
 第三には、バイデン氏の人気の下落で新たな民主党側の先頭走者となったウォーレン上院議員にも最終候補者としての弱みが露出されてきたことだとみられる。
 ウォーレン議員はそもそも自分にはアメリカ・インディアンの血が流れるとして少数民族としての公職への優遇措置などを求めてきたが、その出自が根拠がないことが判明し、謝罪したという最近のミスがある。
 そのうえ同議員の大企業を最初から敵視する姿勢は民主党内でも「極左」と評され、党外でもウォール街からの反発や警戒がきわめて強い。トランプ大統領を倒せる対抗候補としては弱点が多すぎるとされるわけだ。

 以上のような、いわば消去法の論理もあって、ここにきてクリントン候補の出馬説が広まってきたわけだ。この「説」をさらに広げる結果となったのはトランプ大統領の発信だった。
 同大統領は10月8日、ツイッターで「腐敗したヒラリー・クリントンは今回の大統領選にも立って、極左のエリザベス・ウォーレンから民主党の指名を奪うべきだ。ただ問題はクリントンは再び自分のかつての犯罪の弁解をせねばならないことだ」と挑発的なメッセージを流した。
 クリントン氏もこれにすぐに対抗して、同9日、「私に構わず、自分の職務を果たしなさい」と反撃した。
 さてこんな新展開が始まったアメリカの2020年大統領の前哨戦、熱気は高まる一方である。そんななかで2016年の「トランプv.s.クリントン」の対決が再び繰り広げられるのか、注視されるところである。