「政治のプライオリティーを欠いた蓮舫代表の政治感覚」
―安倍外交の本質理解できず―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 蓮舫民進党代表が「安倍首相は国内の問題が山積しているのに、外遊ばかりしているのは何事か」と与党を非難しているのには驚いた。今村雅弘前復興相の辞任で中断していた組織犯罪処罰法改正案(テロ準備罪法)の衆院法務委員会の審議と、「森友」問題について衆参両院の予算委で集中審議をするという。これが首相の外遊より大切なことなのか。蓮舫氏の政治感覚の貧しさには憤然とする。
 安倍首相が欧州を廻っているのはイタリアで行われるG7の打ち合わせが名目だが、狙いは中国に甘い独、仏に釘を刺すことだろう。加えて国連を改組して日本を安全保障理事会の常任理事国にする方針がある。前回安倍氏が国連改組を提案した時には、賛成国が少ないうえに同盟国の米国も反対した。
 当時に比べれば日米関係は様変わりによくなっているし、「北朝鮮問題」のような困難な問題に直面した時“共同対処”が可能になるかも知れない。また小さな国であっても国連では一票だ。安倍氏は東京オリンピック開催国決定当時から票集めをしている。国連憲章の改革も総会で圧倒的多数の国が賛成すれば、中、露も拒否権は使えないだろう。GDP世界第3位の大国が、重要事項の決定にあずかれない仕組み自体がおかしいということになる。
 国際情勢は「核実験をするぞ」とか、「ソウルを火の海にしてやる」と恫喝する国に対して、トランプ大統領が中国に「北を押さえろ」と強要している図である。トランプ氏の強みは元の国際通貨価値をどうにでもできる“権力”を握っているからだ。中国に圧力なぞかけたことのない、独、仏に対して、安倍氏は中国には独、仏の忠告の方が効き目があると説明しているだろう。朝鮮戦争の参加国として、馳せ参じるかも知れない英、仏は日、中、韓3ヵ国の難しい関係を漸く学んだはずだ。
 中国が北朝鮮にいうことを聞かせる決め手は重油供給の停止で、ピョンヤンでは既にガソリン価格が高騰しているという。トランプ氏は「核実験の停止」だけではなく、核放棄に至る手順まで求めると言われる。原油供給停止は3ヵ月で十分という。そのあと暴動で国が潰れるのか、金氏がヤケになってソウルを襲うのかはわからない。米国は途中で諦めることはしないだろう。狂気の国は国際的圧力で従わせるか、戦火によって滅びるか。他に手段はないのではないか。
 野党はテロ準備法制定について何を恐れているのか。いま反対している人達は、一旦テロが起こった時、当局を痛めつけようと狙っている人達なのか。
 「森友学園」問題とは何か。かつて公団住宅や公営住宅に入りたい人は、公明党か共産党に頼んだものだ。これは党の利益になったが、森友学園で当局が忖度をはかったとしても安倍内閣や自民党が利益を得たのか。学園名に「安倍」を付けるほど、安倍氏に傾倒した人が、民進党に垂れ込んで何をしようというのか。こういうのを支離滅裂と言う。
(平成29年5月3日付静岡新聞『論壇』より転載)