10万人を超えたベトナム人技能実習生

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 このほど法務省が発表した在留外国人統計によれば、2017年6月末時点でのベトナム人在留者数は232,562人、そのうち技能実習生が104,802人だったという。ベトナム人技能実習生の数が10万人の大台に乗ったのは勿論初めてであり、中国人の79,959人を大きく凌駕している。つい数年前まで「技能実習生と言えば中国人」というのが常識であったが、今やそうした時代は終わったようである。
 技能実習生の総数は同じ6月末で25万人ほどだから、そのうち42%をベトナム人が占める計算になる。いったいいつ頃からベトナム人の技能実習生が増え始めたのか。大きな転機は2010-11年頃に訪れている。リーマン・ショック後に国際競争力の回復を目指す自動車産業や繊維縫製業が安い労働力を求めて技能実習生をリクルートし、一方のベトナムも高インフレと貿易赤字による経済混乱の中で、外貨獲得目的で大量の労働者を海外に派遣し出す時期である。事実、ベトナムからの技能実習生数は2010年にその前年の4,355人から7,922人へ、そして11年には初めて1万人の大台に乗る13,524人を数えている。実習生の政府系受入機関である「日本国際研修協力機構(JITCO)」がベトナム労働省と体制整備を目的とする正式協議を実施したのも2010年のことだったと記憶する。
 技能実習制度はその後にもうひとつ大きな山場を迎える。それは2013年に入り、尖閣諸島をめぐって日中関係が急速に悪化したことに伴い、中国からの技能実習生の数が大幅に減少し始めたことである。2012年に151,354人という過去最高の数を記録した中国人実習生は、翌13年に107,174人へと30%近く減少した。他方、この減少を埋め合わせるように、ベトナムからの実習生は毎年大幅増加し、2013年に2万人台だったものが、翌14年に3万人台、15年に5万人台となり、ついに2016年には約8万人で中越両国がほぼ同数になったのである。
 では、10万人を超えるベトナム人実習生は日本のどこにいるのか。勿論、彼らベトナム人は日本全国に散らばっているのだが、特に愛知、埼玉、岡山、広島、大阪の府県に多い。実は、この分布にも近年大きな変化が見られ、数年前までのトップ3は愛知、岐阜、茨城であった。愛知は自動車の部品工場、岐阜は繊維縫製業、茨城は農業分野で多くのベトナム人技能実習生を受け入れていたが、今では愛知を含め大都市圏の建設業の現場で働く者が増える傾向にある。また、北海道や広島、埼玉、千葉などで食料品製造(食肉加工や惣菜製造)にかかわる者も増えている。
 今後の技能実習生の動向を予想すると、中国からの実習生は漸減、ベトナム人は増え続けるものの過去数年のような大幅増加はないであろう。日本に需要はあってもベトナム側の送り出し余力が小さくなりつつあるからである。また、台湾、韓国との人材の取り合いもますます熾烈になるであろう。こうした中で技能実習生を「安い労働力」と考える時代は終わり、日本の若者が敬遠する職種を埋める人材源と考えなければならなくなるのではないか。
 アジアからの技能実習生という点ではフィリピン人(2017年6月末時点で25,740人)やインドネシア人(同20,374人)の微増も期待できる。タイ、ネパール、カンボジア、ミャンマーからの実習生もさらに掘り起こせるであろう。タイを除き、送り出し機関と日本の監理団体とのパイプ作りはこれからである。
 また、職種間での実習生の争奪合戦という面も出てこよう。すでに紹介したように、機械、繊維、農業の伝統3分野から最近では大都市圏の建設業に移行する傾向が見られたが、今後は食品製造、介護などの分野に更に人材が移っていくのではないか。また、技能実習を終えて帰国するベトナム人との人的パイプを維持する重要性も高まると予想される。経済がグローバル化し、日越関係が密になる中で、日本で3~5年働いた経験を持つベトナムの若者を「人材の宝庫」として、現地に進出する日系企業などが生かさない手はない。