澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -301-
米朝首脳会談で一体誰が得をしたのか

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2018年)6月12日、シンガポール、セントーサ島のカペラホテルで、史上初の米朝首脳会談が開催され、全世界の耳目を集めた。
 数ヵ月前には、朝鮮半島で米朝が戦火を交えるのではないかと囁かれていた。だから、米朝間で首脳会談が行われ、朝鮮半島危機がしばらく遠のいたと言う点は評価できよう。
 会談当日、まず、通訳のみでトランプ・金正恩両首脳会談が行われた。その後、米朝共に他のスタッフを入れての協議を行っている。更に、ランチ・ワーキングと続いた。
 昼食後、両首脳は「米朝共同声明」に署名している。だが、この声明は、4月27日の南北朝鮮首脳による「板門店宣言」の“焼き直し”の感が否めない(同宣言には、平和体制を築くため、日ロを除く米南北朝鮮3ヵ国か米中南北朝鮮4ヵ国で話し合うという一文が入っている)。
 実は、トランプ大統領は、米朝首脳会談直前、もう「北へ最大限の圧力をかける」という言葉を使いたくないと表明した。トランプ大統領は、「完全で検証可能かつ不可逆的非核化」(CVID=Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement) という看板をおろし、北に譲歩したのである。
 今回の会談で、一体、どの国のリーダーが得したのだろうか。
 まず、トランプ大統領だが、主導的に朝鮮半島の戦争危機を回避したという点は称賛できる。
 また、北朝鮮の完全なる「非核化」の道のりが長くなっても、当面、米国の安全は確保できよう(そのためか、早速「米韓合同軍事演習」をやめている)。更に、トランプ大統領は、今後、金委員長と直接、交渉が可能となった。
 トランプ大統領は、この首脳会談“成功”で、米国有権者に自分は有能な指導者と思われたかっただろう。また、ノーベル平和賞受賞も視野に入っていたに違いない。
 仮に、トランプ大統領が今年10月上旬のノーベル平和賞受賞に輝けば、翌11月6日の中間選挙で、共和党に有利に働くかもしれない。すると、2020年秋の大統領選挙でトランプ大統領の再選も決して夢ではなくなる。
 しかし、今回、トランプ大統領は、中間選挙を見据え、若干、功を焦ったきらいがある。
 米朝会談では、北朝鮮がいつ、どのように「非核化」するのか、具体的かつ明確なプロセスが全く示されなかった。そのため、北朝鮮の「非核化」が単に「努力目標」になる公算もある。また、約束が厳守されるとは限らない。
 次に、金委員長の方だが、世界1の大国、米国と米朝首脳会談で互角に渡り合った。金委員長はそのイメージを国内外にアピールできたので、会談は“大成功”だったと言える。
 また、金委員長が、米国側から現在の「体制保証」が得られたのは、特筆モノだろう。更に、今後、北朝鮮は“段階的”「非核化」(単なるポーズの恐れもある)で、海外から経済的援助を受ける事が可能になった。
 仮に、北朝鮮の“全面的”「非核化」が3段階で行われれば、北は3度、経済援助が受けられるだろう。それでも、金正恩委員長が本当に“完全な”「非核化」(核は廃棄?それとも中国が引き取るのか?)を意図しているのならば、良しとしよう。
 しかし、北朝鮮が「非核化」の検証方法や各国からの援助に不満を表明し、途中で「非核化」をやめた場合はどうなるのか。北“お得意”の掌返しで、それまでの援助は“丸儲け”となる。
 因みに、トランプ大統領は、北の「非核化」の費用は日韓で払うと言明した。韓国経済は思わしくないので、やはり日本が中心にカネを出さざるを得ないだろう。
 つまり、金委員長は、明らかに会談で得した。だが一方、トランプ大統領自身は得したかもしれないが、本当に米国の利益になったかどうか、将来にならなければ分からない。
 さて、韓国の文在寅大統領は、今回の米朝首脳会談のお膳立てをした。従って、何はともあれ、会談開催を喜んでいるに違いない(因みに、6月13日に行われた韓国統一地方選挙は、「親北」系与党の圧勝に終わっている)。
 中国の習近平主席は金委員長の後ろ盾となり、かつ、委員長がシンガポールへ行く際にも、飛行機2機貸与している。中国はその存在感を見せつけたのではないか。
 最後に我が国だが、トランプ大統領は、盟友の安倍首相が強く求めていた日本人拉致問題に関して、直接、金正恩委員長に話したと伝えられている。確かに、トランプ大統領が、日朝首脳会談への道筋をつけた格好にはなったが、今後の交渉進展は容易ではないだろう。従って、もしかしたら、安倍首相が一番の“貧乏くじ”を引かされたと言えるかもしれない。