澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -102-
“パンドラの箱”を開けた「パナマ文書」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

周知の如く、目下「パナマ文書」(パナマの法律事務所から漏洩した国際的VIPや企業等に関する1150万件の機密文書)が世界を震撼させている。
 民間企業が“節税”(課税逃れ)のため、タックスヘイブン(税率の低い、あるいは無課税の租税回避地)でペーパーカンパニーを作るのは、原則、“違法”とは言えない。しかし、国家指導者およびその一族が、タックスヘイブンを利用し、脱税や不正蓄財するのは、明らかに“違法”ではないか(早速、キャメロン英首相が、窮地に追い込まれている)。

 既報の通り、中国では現役・引退した共産党最高幹部の親族 ①習近平国家主席の長姉(斉橋橋)の夫 鄧家貴 ②李鵬元首相の娘 李小琳 ③賈慶林(前人民政治協商会議全国委員会主席)の孫娘 李紫丹などがタックスヘイブンでのペーパーカンパニーと関わっていた。※参照:チャイナウォッチ-101-
 すでに旧聞に属するが、別の現役政治局常務委員 劉雲山(序列5位)と張高麗(序列7位)の名前も「パナマ文書」に記載されている。まず、④劉雲山の息子(劉楽飛)の嫁 賈麗青(賈春旺・前最高検察院検察長の娘) ⑤張高麗の(いとこの養女:張曉燕)娘婿 李聖溌。
 次に、すでに死亡・引退した最高指導部の一族の名前もある。⑥故・毛沢東国家主席の孫娘 孔東梅の夫 陳東昇 ⑦故・胡耀邦元総書記の三男 胡徳華 ⑧曾慶紅・元副国家主席の弟 曾慶淮。
 まさに、中国の「太子党」は、権力をバックにやりたい放題である。
 他方、中華圏の“変わり種”として、台湾の次期総統 蔡英文の兄 蔡瀛陽(弁護士)の名前が「パナマ文書」に挙がっているという。もし、それが本当ならばスキャンダルとなるだろう。
 また、同文書には、日本で活躍する香港出身のアグネス・チャン(日本ユニセフ協会大使)の名前も見られるという。ちなみに、アグネス氏は同文書に記載されている人間とは別人だと関連を否定している。

 さて、現在、米国では各党内での予備選が行われている。けれども、「パナマ文書」が米大統領選挙に影響する恐れがあるだろう。
 共和党は、ドナルド・トランプ大統領候補が他の候補者(テッド・クルーズやジョン・ケーシック)より1歩先んじている。トランプ氏の資産は、45億米ドル(約5000億円)と言われるが、総額は不明である。そのため、トランプ氏が、タックスヘイブンに財産を隠匿している可能性も捨て切れない。
 一方、民主党の方は元国務長官のヒラリー・クリントン候補が社会主義者のバーニー・サンダース候補を大きくリードしている(だが、直近では、サンダース氏の猛追を受けている)。
 もし、ヒラリー氏または夫のクリントン元大統領、あるいは彼らの娘(チェルシー・クリントン)の名前が「パナマ文書」に記載されていたら、民主党予備選・大統領選の行方は更に混沌とするだろう。

 最後に、なぜ我が国では「パナマ文書」があまり報じられないのだろうか。
 菅義偉官房長官が、同文書に関して「軽はずみな事は言えない」として、慎重な姿勢を見せた。
 本来、「パナマ文書」はマスメディアが飛びつくはずの“世紀の大スキャンダル”である。それにもかかわらず、一部のマスコミを除き、日本では同文書に関する報道は必ずしも熱心ではない。
 なぜか。実は、「パナマ文書」には、日本の名だたる大企業が記載されているという。大半の新聞社やテレビ・ラジオの放送局は、自らのスポンサーである大企業を叩くことは難しい。
 特に、テレビ各局は、「パナマ文書」報道を“自粛”しているふしがある。一説には、同文書の中に、広告代理店最大手 電通の名前があるという。仮にそれが事実ならば、多くのテレビ局は同文書報道に関して、及び腰にならざるを得ないだろう。

 今年の夏、我が国は参議院選挙が控えている。与党・自民党や野党・民進党の中にも、「パナマ文書」に直接関わっている議員がいる可能性も排除できない。あるいは、同文書に名前が記載されている大企業から献金を受けている与野党議員も少なくないだろう。
 与野党ともに選挙前なので、自らがその“疑惑の対象”となるのを避けたいに違いない。そのため、少なくとも夏までに、日本政府が積極的に同文書を調査する公算は小さいと思われる。
 ただ、来月5月には、「パナマ文書」の調査結果が公表されるという。同文書は、いわば“パンドラの箱”で、いったん開けたら最後、世界中、事態収拾がつかなくなる恐れもある。恐らく、3年前のエドワード・スノーデン元米CIA職員による「国家機密暴露事件」の衝撃をはるかに超えるのではないか。