澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -362-
クロスする台湾出身者と中国出身者の発言

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 最近、台湾海峡両岸で、同じ日に奇しくも不思議な事件が起きた。
 今年(2019年)3月、北京では全国人民代表大会(以下、全人代)とほぼ平行して、政治協商会議(同、政治協商)が開催されている。
 3月11日、政治協商中、台湾出身の香港政協委員、凌友詩(57歳女性)が「世界に中国は1つしかなく、全中国の唯一の合法的代表政府は中華人民共和国政府である」と何度も繰り返し述べた。そして、「両岸の統一を心待ちしている」と「中台統一」を唱えたのである。
 一方、同日、中国から台湾への留学生、李家宝(1997年生まれの男子)が、大胆にも習近平批判を行った。
 李は山東現代学院看護学科の1年生だが、台南市にある嘉南薬理大学(Chia Nan University of Pharmacy & Science)へ留学している。
 3月11日、李家宝は台湾国立清華大学で、「私は反対する!」という講演を行った。そこで、李は中国共産党による「反自由・反民主」の政治には、うんざりしていると述べた。
 一般に、多くの中国人は台湾に対し「1国2制度」を受け入れよと主張する。反対に、中国人留学生が台湾で習政権批判を行うのは、極めて珍しい。
 凌友詩と李家宝とは、お互い立場が逆転しているのではないか。
 まず、凌友詩は、台湾の国民党軍人村(眷村)に生まれ育った。凌の父親は、国民党海軍に所属し、副艦長を務めている。凌友詩は17歳の時、香港へ行き、修士と博士を取得した。その後、香港特別区政府で仕事をし、福建省政治協商香港マカオ華僑委員としての任務を担っている。2013 年、中国共産党平和統一促進会香港総会常務理事となった。そして、2018年、香港代表の政治協商委員になったのである。
 よく知られているように、8割以上の台湾人は「中台統一」に反対している。だが、凌友詩は、自分は“平凡な台湾女子”だと強調しながらも、中国共産党による「1国2制度」下の「中台統一」に言及した。凌は、「台湾主流民意」とは反対の事を声高に叫んだのである。
 なお、凌友詩は香港市民だが、米国のグリーンカード(永住権)を持っているという。また、1番最後に「中華民国パスポート」で台湾へ入境したのは、2017年1月で、2月初旬に出国している。
 因みに、全人代や政治協商のメンバーの過半数は、外国籍ないしは、外国永住権を所持しているという。
 中国では一昨年(2017年)10月、北京で中国共産党第19回全国代表大会(「19大」)が開催された。その際、台湾高雄出身の「上海台湾同胞聯宜会」会長、盧麗安が「台湾代表」として「19大」に出席した(盧は2022年まで中国共産党の「台湾代表」を務める予定である)。
 従って、台湾島内で、凌友詩は「第2の盧麗安」とみなされている。
 次に、李家宝だが、既述の通り、中国大陸から台湾への留学生が、自国政権を真っ向批判した。
 昨2018年7月、董瑶琼(女性)が、上海で習主席のポスターに墨をかけた。また、同年11月、張盼成と祁怡元が、習近平専制政治に反対し、言論の自由を要求した。90年代生まれの若者が、習近平政権に対し果敢に挑んだのである。しかし、董瑶琼は精神病院へ送られた。他方、張盼成と祁怡元は、まもなく失踪している。
 もしかすると、李家宝が匿名であれば、大事件にならなかったかもしれない。だが、実名も顔も公開してしまった。
 確かに、李家宝の勇気は讃えられよう。けれども、故郷の両親や兄弟、親族はこれからどうなるのか。その点が危惧される。
 両親は息子に対し、「これ以上、余計な事をしゃべるな」と考えているに違いない。さもないと、両親らは国家安全部から迫害を受けるからである。つまり、両親や兄弟、親族は中国共産党の“人質”と考えられる。李が習近平批判をする度に、彼らはひどい目に遭うのではないか。
 また、李家宝は、直接、北京から圧力が加わるだろう。おそらく、台湾でも、中国スパイが暗躍しているはずである。だから、李が台湾政府に対し、自分を保護して欲しいと懇願した。
 また、李家宝は、これからも台湾に住み続けられるよう望んでいる。もし、李が中国大陸へ戻ったら、「国家政権転覆扇動罪」等の罪名で逮捕・起訴されるのはまず間違いない。
 今後、台湾政府が、李家宝をどのように扱うかが注目されよう。