澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -376-
北京で開催された「アジア文明対話大会」

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)5月15日、「アジア文明対話大会」が北京で開催された。47ヵ国、約2000人の代表がこの大会に招かれた。不思議な事に、アジアだけでなく、一部ヨーロッパ(ギリシャ)からも参加している。
 先月4月25日から27日まで、第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが北京で開かれたばかりである。
 中国共産党が、同じような国際会議を次々と開催するのには、何か訳があるのではないか。
 その最大の理由は、中国は「米中貿易戦争」(=「米中新冷戦」)で、苦境に陥っているからだろう(米トランプ政権は、“本気”で習近平政権に対峙している)。
 そこで、北京は「一帯一路」イニシアチブや「アジア文明対話大会」で、その打開策を模索しているのではないか。
 もう一つ考えられるのは、国内の“集団的騒乱事件”対策である。今年は「5・4運動」100周年、「6・4天安門事件」30周年の節目に当たる。
 習近平政権としては、この5月、6月を何事もなく、無事に経過したいのではないか。そのため、警備の厳しい国際的イベントを立て続けに開いたとも考えられよう。
 けれども、かかる国際会議を開くには、巨額の費用が必要となる。そして、毎回、数兆円も“浪費”している。
 同時に、国際会議の度に「北京ブルー」を演出しなければならない。北京市内が、(PM2.5に代表される)大気汚染に包まれていたら、習近平主席は面子を失うだろう。
 「北京ブルー」を創出するためには、北京市内(おそらく北京を取り囲む河北省も)の工場を最低1週間程度は操業停止にする。
 また、北京市内では、自動車の台数も規制しなければならない。排ガスで空気が汚れるからである。場合によれば、市内の会社や学校を休みにする。北京の地下鉄も走らせない。
 これで、何とか「北京ブルー」を演出できるかもしれない。但し、これでは、不景気がますます深刻化するだけだろう。
 さて、5月10日、米トランプ政権が約2000億米ドル相当の中国製品に、追加関税(10%から)25%への引き上げを発表した。今後、同政権は、更に約3000億米ドル相当の中国製品(3805品目)に対しても、同様の関税を課すと示唆した。
 それ以来、「アジア文明対話大会」で、習近平主席が初めて演説したのである。
 習主席は「他の文明を改造したり、取って代わろうとしたりするのは愚かだ」と指摘した。また、米国を念頭に置いて「文明の交流は強制や脅迫ではいけない」と述べた。
 では、中国共産党が国内で行っている宗教弾圧は一体何なのか。
 北京は300万人と言われるウイグル人(イスラム教徒)を再教育キャンプに押し込めている。無論、チベット人(チベット仏教徒)も迫害の対象となっている。
 それだけではない。各地の仏像の破壊も進んでいる。また、北京は教会を取り壊したり、キリスト教徒を抑圧したりしている。これは、文明の破壊そのものだろう。習近平政権は、言う事とする事が真逆ではないか。
 以前、党内で、完全否定された「文化大革命」が、習近平主席の登場以来、「第2文革」(あるいは「文化小革命」)として、再び遂行されている。
 一方、習近平演説の中身にも問題があるのではないか。習主席は、演説の中で、「世界4大文明」に言及した。おそらく、この原稿を書いたのは、“知恵袋”と目される王滬寧(政治局常務委員)だろう。
 そもそも「世界4大文明」は、梁啓超が政治的に“創作”した代物である。当時、梁は西欧列強から圧迫されている清国人を奮い立たせるため「世界4大文明」を“創造”した。
 実際、シュメール人がチグリス・ユーフラテス川に打ち立てたメソポタミア文明こそ、人類最古の文明であり、エジプト文明やインドのインダス文明、中国の黄河文明などは、その亜流と考えられる。
 そして、シュメール人の遺した記述によれば、彼らの先端的な知識や技術は、地球に降りた“神”から与えられたモノだと言う。
 習近平主席は、このような事実も知らずに、「世界4大文明」を持ち出した。ブレインたる王滬寧が習近平主席に大恥をかかせたのである。