2016 年夏の北朝鮮ミサイル発射は、中国との連携プレーだ
―その背景にある中国の軍事戦略―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 昨年(2016年)夏の北朝鮮の弾道ミサイル発射は、その年の初めから6月頃までの発射とは、狙いが全く異なっている。昨年当初からの発射は、37年ぶりの党大会に合わせた金正恩のための成果作りである。しかし、夏の発射は、「北朝鮮が中国に貢献した中朝連携プレー」だった。
 昨年夏に生じた2つの動きに焦点を当ててみる。1つは、中国が設定した南シナ海での九段線について、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所裁定の動き。もう1つは、その前後に、北朝鮮が弾道ミサイルを挑戦的に発射していたことである。
 裁判の裁定と北朝鮮のミサイルの発射を、それぞれ個別に見ると、日本海と南シナ海という遠く離れた地域で行われているもので、全く関係ないものであるかのように見える。しかし、この2つを時系列で追いかけてみると、不思議な関係性の糸が見えてくる。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は昨年の7月12日、中国が南シナ海の広い範囲に独自に設定した「九段線」には「法的根拠はない」と裁定した。中国は仲裁裁判所の裁定が下されるのを前に、自国の「敗訴」を想定し、外交と世論対策(宣伝戦)で、国際批判を乗り切ろうとしていた。裁定が出される前の7月7日に、中国の王毅外相は、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長との会談で、南シナ海問題でフィリピンが国連海洋法条約に基づいて申し立てた仲裁手続きが「一方的」で、「緊張をさらにエスカレートさせる」と批判した。

 そんな中、仲裁裁定の前後から、弾道ミサイル「ノドン」や潜水艦発射弾道ミサイル(submarine-launched ballistic missile :SLBM)の発射など、北朝鮮のミサイル発射が活発化した。それも、日本のマスメディアに注目させ、それを見た日本国民が緊迫感を持つように、わざと日本の近くに落下させた。しかし、9月5日のミサイル同時3 発射撃以降、北朝鮮はミサイルを発射していない。

 この特異なミサイル発射の動きは、「何故、その時にだけ集中したのか」と、これまでにない疑問が生じた。その裏では、南シナ海問題への国際的な批判をかわしたい中国の思惑が見え隠れする。北朝鮮のミサイル発射に国際社会の注目が集まれば、中国への非難がトーンダウンする効果が期待できるからだ。そのため中国は、水面下で北朝鮮と手を握り、或いは、北朝鮮の動きを黙認していた可能性がある。