日本の防衛
―海洋安全保障からの3 つの視点―

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

はじめに
 原子力空母11隻、原子力潜水艦50隻以上を有する世界最強の米海軍は、今大変革を進めている。それが、「武器分散(Distributed Lethality)コンセプト」1という、新たな戦い方である。米海軍は、2012年1月に公表された「国防戦略指針(Defense Strategic Guidance)」2に基づき、アジア太平洋地域を重視するリバランスを進めているが、これまでの発想を超えた新たなテクノロジーを駆使した「武器分散コンセプト」の導入は、同地域における安全保障環境が予想以上に厳しいことを裏付けている。
 日本も平和安全法制の整備や新ガイドラインを策定し、日米による安全保障態勢は着実なグレードアップを実現している。しかしながら、日本の防衛に危機意識を実感している国民がどれほどいるかは大きな疑問であり、安全保障について公で活発に議論を展開する米国とのギャップがあることは否めない。
 本稿では、海洋国家・日本を取り巻く海洋における差し迫った危機を整理し、アジア太平洋地域における米太平洋軍の最新の戦略動向の分析を通じて、海洋安全保障から日本の防衛について捉え直す。

1 日本に差し迫る危機
 日本周辺海域において、中国漁船による密漁が大きな問題となっている。2014年10月末、小笠原諸島から伊豆諸島周辺の日本の領海及び排他的経済水域(EEZ)内において、200隻を超える中国漁船が、赤サンゴを大量に密漁しているのが確認された3。赤サンゴは希少な宝石サンゴであり、中国周辺海域における密漁により資源が枯渇し価格が高騰したことにより、日本周辺に進出してきたと考えられるが、中国漁船の数の多さに海上保安庁巡視船による対応が厳しいものとなっている。
 また、中国漁船のみならず、中国漁船と行動をともにする中国公船(中国政府に所属する船舶)の活動が活発化していることも見逃せない。2016年8月5日から9日にかけて、尖閣諸島周辺海域において、約200~300隻の中国漁船が集結し、中国漁船に引き続き、中国公船が延べ28隻、領海侵入を繰り返した4。中国漁船と中国公船によるこのような大規模な活動は初めてのことである。
 日中合意を無視した活動も顕著である。中国は東シナ海の日中中間線付近において、ガス田開発を加速しており、これまで16基のガス田構造物が確認されている5。これは、2008年6月の日中共同開発合意を無視した活動であることのみならず、レーダーや監視カメラの設置等も確認されており、今後更に拡張されれば、南シナ海のような軍事拠点化の可能性も否定できない。そして、2016年11月には、移動式掘削船を使った新たなガス田開発も進めている。

本論は、全て筆者の個人的見解であり、筆者の所属組織を代表するものではありません。

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1   下平拓哉「武噐分散コンセプト」海上自衛幹部学校米海大ナウ!http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/navcol/2016/041.html
2   U.S. Department of Defense, Sustaining U.S.Global Leadership: Priorities for 21st Century Defense, January 2012.
3   「小笠原諸島周辺海域等における中国サンゴ船問題」外務省、2015年1月22日、http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m2/page3_001027.html
4   「平成28 年 8 月上旬の中国公船及び中国漁船の活動状況について」海上保安庁、2016年10月18日、http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/post-280.html
5   「中国による東シナ海での一方的資源開発の現状」外務省、2016年10月12日、 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html