対露外交をどう立て直すか

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拓殖大学海外事情研究所教授 名越健郎

 鳴物入りで行われた昨年(2016年)12月のプーチン・ロシア大統領の訪日は、北方領土問題で進展がないままに終わった。安倍晋三首相は「平和条約締結への一歩を踏み出した」と成果を強調したが、2018年3月のロシア大統領選までは領土交渉が前進するとは思えない。寧ろロシア外交の最優先課題は、トランプ政権発足を受けて、対米外交再構築による国際的孤立からの脱却に移っており、ロシアは再び欧米重視外交で臨む可能性がある。一方で、ロシアとの関係改善を公約に掲げたトランプ政権は、ロシアと組んで中国を孤立させる動きも見せており、米中露三国関係で、中国の危機感が高まっている模様だ。不確実なトランプ政権の始動で、国際情勢の流動化が進み、グローバル化の潮流も後退するかに見える。安倍外交は一旦立ち止まって立ち位置を確認し、外交路線を再構築する必要があるかも知れない。

「プーチン外交の大勝利」
 プーチン大統領の訪日は、昨年5月のソチ、9月のウラジオストク、11月のリマと続いた安倍、プーチン両首脳の首脳交渉の総決算と位置付けられた。双方は、北方4島での共同経済活動に関する協議開始で一致し、元島民の4島訪問手続きの簡素化では合意した。両国はまた、極東開発支援や医療協力、エネルギー協力など計82の経済協力文書に調印した。
 しかし、肝心の領土帰属問題は寧ろ後退した形だった。共同声明が発表されず、会談の評価は両首脳の共同記者会見で下すしかないが、プーチン大統領は領土問題で自らの歴史認識を詳しく表明した。「1855年にプチャーチン提督が条約を締結した時、日本は初めて南クリール諸島を手に入れた。それまではロシアの航海士が発見したため、ロシアは自国に帰属すると考えていた」と述べ、暗に「日本固有の領土」という主張を根底から崩そうとした。また、「ロシアは第二次大戦の結果、南クリールを取り戻した」とも述べた。日米安保条約が2島引き渡しの障害になることにも言及した。訪日前の読売新聞・日本テレビとのインタビューで、「ロシアにとって、領土問題は存在しない。あると考えているのは日本だ」「4島返還の主張は日ソ共同宣言の枠を超えている」「日本の対露制裁が関係発展を妨げている」などと述べていたが、強硬姿勢をそのまま訪日に持ち込んだと言える。