日本外交の基本は古来「対中国」

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会長・政治評論家 屋山太郎

英国のEU 離脱の影響
 英国のEU離脱には愕然とした。まとまりつつある欧州の集団が瓦解するとEU、NATOとロシアとの均衡が危くなる。このバランスの上で蠢いていた中東情勢はどうなるのか。また急激なポンド安は国際金融の世界を揺るがした。離脱の時点では英国経済の先行きは真っ暗ではないか。日本のアベノミクスにも甚大な影響を与えるだろうと懸念された。
 この離脱は英国民のチョンボだったのか。キャメロン首相の後を継いだメイ首相は就任直後、官邸前で15分間のスピーチを行っている。その要点は①貧富の格差を是正する②企業が役員に法外な報酬を払う習慣を止めさせる―というものだ。
 フィナンシャルタイムズはこの短いスピーチが政治のポイントを押えていると賛嘆していた。一言で言えば資本主義が行き過ぎて低所得者層に疎外感が高まっていた。その不満感が資本主義化、官僚化を強めているEUへの反感を呼び、脱退を決意させたのだろう。
 振り返ってみると日本でも金融バブルの頃から行き過ぎた資本主義現象が現れていた。一流企業の社長の給料で最も高いのは日産のゴーン社長だと思っていた。このレベルでも世界的には低い。ところがソフトバンクの孫正義社長は副社長にインド人を迎えて俸給は年に165億円だという。その副社長を辞めて貰うのに何百億円か払ったという。これこそ法外の資本主義というべきだろう。このいびつな資本主義が、富の分配を歪め続けてきた。
 グローバル化一点張りできた国際情勢はこれから多極化に向かっていくだろう。日本はこの国際経済の流れの中で、金融・財政政策の発想の転換が不可欠になる。アベノミクスは安倍晋三氏が財務省の網から脱して、自ら構想した財政政策だ。この政策が間違っているという人は、代案を示してから言うべきだろう。

安倍外交が対中・対韓外交を変えた
 安倍外交は出色の出来栄えだった。安倍外交が際立っていたのは就任直後に中国、韓国に対して「条件をつけるなら会わない」と述べたことだ。これによって日本と中・韓との仲は一挙に冷え込んだ。聖徳太子が607年に隋の煬帝に「日出ずるところの天子、日没するところの天子に書をいたす。恙なきや」との書を届けた故事がある。それに先立って中国は日本に倭の国の時代から朝貢を求め、冊封国家にしようと企てた。日本はこれを嫌って「あなたとは対等ですよ」と通告したと言われている。