極東開発協力は領土問題解決の 橋頭堡になるか
― 安倍首相、対露「8項目提案」の焦点―

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キヤノングローバル戦略研究所研究員 吉岡明子

 9 月2 日、ロシア極東のウラジオストク市で、日本の安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との間で、通算14 回目となる首脳会談が行われた。夕食会を含め3 時間超に及んだ会談では、安倍首相の方から5 月にソチでプーチン大統領に提示した8 項目の経済協力プランについてその具体案を説明したほか、平和条約交渉についても、「新しいアプローチ」に基づく「かなり突っ込んだ議論」が行われたとされる。日本としては、ロシアとの経済協力を強力に推し進めることで、北方領土問題を含む平和条約交渉進展に向け、環境を整えたい考えだ。会談に先立ち、首相は「ロシア経済分野協力担当相」というポストまで新設し、政府系金融機関などをフル活用する形で、企業と政府が連携して対露経済協力に取り組む姿勢を打ち出している。
 日本が示す対露経済協力プランはエネルギーや医療など多岐にわたるが、特にプーチン政権が力を入れる極東地域の開発について、安倍首相は首脳会談の冒頭「格好の共同作業の場」と表現、日本として「協力を強力に推し進めていく」と強調してみせた。安倍首相も参加して開催された「東方経済フォーラム」においては、日本のロシア極東への具体的な協力のひとつとして、同地域への日本の投資誘致に向け、日露の合同プラットフォーム創設に関する協定が締結されたほか、日本の国際協力銀行(JBIC)・三井物産による露ルスギドロへの出資に関する覚書も交された。ルスギドロは、ロシア極東開発のキーマンの一人、トルトネフ副首相(兼極東連邦管区大統領全権代表)が会長を務める国営電力大手である。
 しかし、果たしてロシア極東は日露経済協力の「格好の共同作業の場」として成功し得るだろうか、ひいては北方領土問題解決に向けた橋頭堡となり得るのだろうか。

ロシアが極東開発に邁進する理由
 「極東開発は甚だ重要な国家的課題だということを認識しなくてはならない」、「これは21 世紀を通じた国家的優先課題だ」――。プーチン大統領は2000 年の就任直後から、極東地域の再開発を安全保障上の最重要課題のひとつと見做し、繰り返しその意義について強調してきた。今回の日露首脳会談がウラジオストクで行われたのも、勿論偶然ではない。大統領は2012 年のアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会談の開催場所を、周囲の反対を押し切る形でウラジオストクと定め、多額の連邦予算をつぎ込み、この都市を「アジア太平洋地域への玄関口」として整備してきた経緯がある。