新たな時代を迎えた日米安全保障協力

.

政策提言委員・元空自航空教育集団司令官 小野田治

1 はじめに
 1991 年のソ連崩壊以降、世界及びアジア太平洋地域の安全保障環境は大きな変化を遂げた。力を背景に世界及び周辺地域に強い影響を及ぼしてきたソ連が消失し、強大な軍事力は一気に弱体化した。ソ連崩壊に先立つこと約10 年、地域の戦略環境変化の第一の端緒となったのは、中国の実権を鄧小平が握り改革開放路線に転換したことである。中国が急速な経済力発展へのスタートを切ったこの時期、人民解放軍は沿岸線の防御から近海、遠洋へと防衛線を遠方に拡大していく海洋防衛戦略を描いた。それから35年、中国のGDP は1980 年の約3 千億ドルから2015 年には37 倍の約11 兆ドルへと大きく躍進した。同期間の日本のGDP 増加は3.8 倍、米国は6.2 倍である。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2014 年の国防費を1992 年と比較すると、日本が1.16 倍、米国が2 倍であるのに対して、中国は19.3 倍に上る。2015 年の国防費は、日本が409 億ドル、米は5,960 億ドル、中国は2,150 億ドルで日本の約5 倍に上っている。
 列強に侵食された屈辱の歴史を挽回し、「中国民族の偉大なる復興」によって大国としての地位獲得を唱える習近平主席の言葉にみられるとおり、経済力と軍事力の急速な増大は中国に大きな自信を与えた。だが残念なことにその自信は、他を顧みない自国利益の拡大のみに向けられているように見える。国際法を無視した領有権の主張、係争地域における原油や天然ガスなどの海底資源の一方的な開発、漁業権の一方的な拡大、人工島の建設と軍事基地化など、東シナ海、南シナ海で繰り広げられている中国の強圧的な行動に周辺諸国は懸念を深めつつある。
朝鮮半島においては、ソ連崩壊以降中国の支援の下にある北朝鮮が、核兵器によって自国の安全保障を図る先軍的かつ強権独裁政治によって地域の不安定要因となるに至っている。弱体な経済力にも拘わらず、北朝鮮の弾道ミサイルと核兵器開発は着実に進展し、米国本土が北朝鮮の核弾頭の脅威に晒される日が遠からず到来すると見られている。
 本論は、こうした厳しい環境下、アジアへのリバランス戦略を唱える米国の安全保障戦略によって引き続き地域の安定を維持することができるのか、地域のリーダー的存在である我が国はどのように地域の安定に貢献すべきなのか、我が国が取り組むべき努力を考察するものである。