蔡英文政権発足後の台湾と最近の香港情勢

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

蔡政権による前政権との決別
 今年2016年1月16日、台湾W選挙(総統選・立法院選)で、民進党が両選挙ともに勝利した。
 翌2月1日、新しい立法院(日本の国会に相当。1院制)で民進党が多数を占めた。台湾政治史上、初めての出来事だった。
 そして、5月20日、蔡英文・民進党主席が総統に就任し、蔡政権が正式に発足した。
 蔡英文政権は、安全保障の面から、前馬英九政権の「中国一辺倒」政策を即時撤回し、日米との関係強化へシフトしている。同時に、蔡政権は、経済的に「チャイナ・リスク」を避けるため、東南アジア・南アジア(特にインド)との関係深化を模索している。
 今年4月25日、台湾漁船が我が国の東京都小笠原村沖ノ鳥島周辺(約150カイリ)で、日本の排他的経済水域(EEZ)に入った。そのため、海上保安庁の巡視船が台湾漁船を拿捕している。
 翌5月1日、それに反発した馬英九政権は、海岸巡防署(日本の海上保安庁に相当)の巡視船など計2隻を沖ノ鳥島周辺海域へ派遣した。
 5日後の6日、馬英九総統(当時)、沖ノ鳥島は「島ではなく岩礁だ。EEZは発生しない」との立場を表明している。
 同日、安倍晋三首相と実弟、岸信夫衆議院議員(自民党・衆議院外務委員長<当時>)は、馬英九総統と会談した。岸議員は、台湾政府が沖ノ鳥島のEEZへ巡視船を派遣したことに抗議している。
 馬英九総統は、政権末期、故意に日台関係を悪化させようとしたのではないかと思われる。
 だが、5月23日、就任したばかりの蔡英文新総統は馬英九前政権の方針をあっさり撤回する考えを表明した。早速、民進党政権は日本との関係改善へ動いた。これは重大な決定である。
 蔡英文新政府は、日本との自由貿易協定(FTA)締結を望んでいる。同様に、台北は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加盟を求めている。そのためには、日米の後押しが必要だろう。
 因みに、5月18日、米連邦下院で2017年度「国防授権方案」が通過した。その中に台湾軍を環太平洋軍事演習(リムパック)へ招待する提案が含まれている。米国と台湾の軍事交流を促進し、台湾軍に対する修正案も明記された。 少なくても、米国防総省は、米日台で、中国軍の“膨張” に対応する構えである。
 もう一つ、蔡新政権は、重大な決定を行った。5月21日、新任の潘文忠・教育部長(教育相)が近日中に「課程綱要」(日本の学習指導要領に相当)を廃止する行政命令を出すと公表した。改訂されたばかりの「新課程」教科書を「旧課程」教科書へ戻すよう決定したのである。
 2008年、馬英九前総統は就任直後、『認識台湾』という「台湾史観」の教科書の見直しを行った。王暁波(外省人)ら中心に、「中国史観」による「新課程」教科書が編集されている。